宇都宮市では近年、ライトライン(LRT)の開業によって公共交通ネットワークの構築が大きく前進し、沿線エリアでは人口増加や地価上昇といった効果が現れています!
このLRTという先進的な交通インフラは、都市の骨格を形成し、環境にも優しい持続可能な都市づくりの象徴として注目されてきました。
しかし、昨年開催された宇都宮市の第99回都市計画審議会(2024年7月1日)で示された「宇都宮市立地適正化計画」の中間評価を詳細に見ていくと、LRTだけではコンパクトシティ実現の万能薬にはならないという現実が浮かび上がってきています。
確かにLRT沿線では一定の成果が見られるものの、市全体としては都市機能や居住の誘導が目標値に達していないなど、複数の課題が明らかになってきました。
今回は、宇都宮市から公表されている、計画の中間評価の資料を基に、LRTという優れた交通インフラの整備だけでは解決できない宇都宮市のネットワーク型コンパクトシティ(NCC)形成の課題について、深く掘り下げてみたいと思います。
立地適正化計画とは何か?
立地適正化計画とは、人口減少・少子高齢化が進む中でも暮らしやすい街を実現するために、「都市の拡散」から「都市のコンパクト化」へと転換する具体的な青写真です。
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わかりやすく言えば、「街のどこに必要な機能をまとめるか」「街のどこに住む場所を集約するか」を決める計画です。
例えば、病院・商業施設・行政サービスなどを集める「都市機能誘導区域」と、そこに住む人を集める「居住誘導区域」を設定します。
宇都宮市の場合、JR宇都宮駅周辺や東武宇都宮駅周辺、LRT沿線などが重点エリアとなっています。
具体的な誘導手法としては、区域内に立地する施設に対する補助金や税制優遇措置、逆に区域外での大規模な開発の届出義務化などがあります。
宇都宮市では「住む場所」と「生活の拠点」をLRTなどの公共交通で結ぶ「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」を目指し、2037年(現在から約12年先)の都市の姿を展望しています。
ただし重要なのは、LRTなどの交通インフラは「手段」であって「目的」ではないという点です。
本来の目的は、少子高齢化と人口減少が進むなか、コンパクトな都市構造を実現することで、都市の効率化を図り、都市の持続可能性を維持することが目的です。
宇都宮市を取り巻く環境変化
都市計画審議会の資料によると、現在の宇都宮市を取り巻く環境変化としては、おおよそ期待通りのまちづくりが進展していることが挙げられます。
前述のようにライトライン(LRT)の開業等により公共交通ネットワークの構築が進展し、ライトライン沿線では人口増加や地価上昇、土地利用の高度化といった効果が現れています。
また、「スポーツのまちうつのみや」の実現に向けて、ライトライン沿線では新公園のインフラ整備や、スポーツと様々な分野を掛け合わせた産学官連携の取組が強化されています。
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都市基盤整備も着実に進展しています。
駅東ライトラインの開業やバス路線の再編、JR宇都宮駅東口地区における交流拠点施設の供用開始など、公共交通や都市基盤の整備により「拠点」形成に向けたまちづくりが進んでいます。
また、駅西側におけるライトラインの整備区間・検討区間が公表され、2030年代前半の開業を目指した事業が進行中です。
計画の評価指標と達成状況からみえる課題
計画の中間評価で示された指標の達成状況からは、LRTの整備だけでは解決できない課題が明確に見えてきます。
都市機能の誘導状況を見ると、都市機能誘導区域内に立地する誘導施設の割合は33.7%(基準値)から32.2%(実績値)へと減少し、目標値(34.3%)を下回っています。
また、高次都市機能誘導区域内に立地する事業所の割合は19.7%で変化がなく、目標値(20.1%)に達していません。
つまり、LRTをはじめとする交通インフラの整備が進んでも、それだけでは都市機能の誘導は自動的には進まないという現実があります。
一方で、地価変動率は都市機能誘導区域内で4.5%と、市内平均(3.0%)を上回っており、この点では着実に進展しています。
これはLRT沿線の価値向上という点では効果が出ていると考えられますが、それが必ずしも都市機能の集約につながっていないことを示しています。
居住の誘導状況についても、都市機能誘導区域の人口割合は17.5%(基準値)から17.2%(実績値)へと減少し、目標値(18.1%)を下回っています。
居住誘導区域の人口割合も46.5%から46.4%へとわずかに減少し、目標値(47.8%)に達していません。
高次都市機能誘導区域の人口密度は64人/haで変化がなく、目標値(67人/ha)に達していません。
特に注目すべきは、LRT沿線では人口が増加している一方で、市全体では人口減少が進んでいるという点です。
これは、LRTによる効果がその沿線に限定され、市全体としての都市構造の転換には至っていないことを示唆しています。
また、空き家率は居住誘導区域内で4.3%と、市内平均(3.6%)より高くなっており、交通インフラの整備だけでは空き家問題の解決にもつながらないことが明らかになっています。
LRTを超えた立地適正化計画推進上の課題
宇都宮市の立地適正化計画の中間評価結果から明らかになった課題は、大きく分けて3つあります。
1つ目は「人や施設を誘導区域内に集める」という課題です。
これは計画の根幹にかかわる問題で、LRTが開通しても自然と人や店舗が集まるわけではなく、積極的な誘導策が必要だということです。
2つ目は「誘導区域の境界線や設定を見直す」という課題です。
例えば、鶴田駅周辺や岡本駅周辺など、都市開発の進展に合わせて新たに誘導区域に加えるべきエリアが出てきています。また、LRTなどの交通整備状況に応じて、区域の再設定も必要です。
3つ目は「住みやすい環境を整える」という課題です。
単に人を集めるだけでなく、公園や生活道路の整備、コミュニティ施設の充実など、実際に住む人の生活の質を高める取り組みが不足しています。
これらはいずれも、LRTをはじめとする交通インフラの整備だけでは解決できない課題です。
誘導区域内への誘導促進については、宇都宮市が直面する具体的な課題がいくつかあります。
例えば、中心市街地に残る空きビルや空き店舗といった既存ストックが十分に活用されていない問題や、郊外での不動産開発が依然として続いていることなどです。
また、テレワークやシェアオフィスといった新しい働き方に対応した施設の不足も指摘されています。
これらの課題解決のためには、LRTを整備し公共交通を充実させるだけでは不十分です。
具体的な対策としては、空き店舗をリノベーションする事業者への助成金拡充や、誘導区域内の固定資産税の軽減措置などの経済的インセンティブが効果的でしょう。
また、誘導区域外での大規模商業施設や住宅開発に対する開発許可の厳格化なども検討する必要があります。
居住誘導区域外での不動産開発に規制がない以上、既存の市街化区域内では新規の住宅建築が続いてしまうため、居住地の集約も、空き家問題も根本的な解決は難しいでしょう。
宇都宮市民にとっては、こうした「アメとムチ」の政策が日常生活に直接影響してくる可能性があるため、市民の反発も予想され、住民参加型の丁寧な合意形成プロセスも重要です。
LRTなどの交通インフラは重要な要素ですが、それだけでは居住環境の質の向上にはつながらず、公園や生活道路、コミュニティ施設など、生活に密着した都市基盤の整備も同時に進める必要があります。
今回の計画見直しの特徴とLRTを超えた施策
中間評価を踏まえた計画見直しの特徴的な点としては、ライトライン沿線等のまちづくりの更なる推進と誘導区域等の最適化が挙げられますが、注目すべきは、これらがLRTだけに依存せず、より総合的なアプローチを採用している点です。
ライトライン沿線等のまちづくりの更なる推進では、ライトライン沿線における居住の更なる誘導として沿線の各エリアに目標人口密度を設定するとともに、都市活動を活発化させる新たな機能の充実として誘導促進に向けた支援策の充実が図られています。
これは、LRTというインフラを活かしつつも、それだけに頼るのではなく、人々の活動や生活の質を高める機能の誘導に重点を置く姿勢を示しています。
また、誘導区域等の最適化については、高次都市機能誘導区域の変更・誘導施設の追加、都市機能誘導区域の新設(鶴田駅周辺エリア)、都市機能誘導区域の変更(岡本駅周辺エリア)が行われています。
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これは、LRTなどの交通インフラの整備状況を踏まえつつ、都市機能の適正な配置を見直す取り組みといえます。
特に注目すべきは「都市活動支援機能」という新たな誘導施設の設定です。
これは、「住む」「働く」「学ぶ」などの視点から、公共交通の移動の合間に、買い物や仕事、勉強などを可能とする施設を誘導するものです。
具体的には、移動の場面を支援する施設としてコンビニエンスストアなどが、都市活動を支援する施設としてカフェ等の施設併設型を想定した都市活動支援施設が挙げられています。
これらの施設を配置するための「新たな誘導エリア」として、ライトライン停留場や鉄道駅、主要バス停の周辺30か所に、公共交通の待合時等に徒歩等で容易に移動できる範囲(100mの範囲を基本)を設定しています。
これは、交通インフラの結節点を単なる移動の場ではなく、人々の活動が生まれる場として再定義する試みといえ、LRTという交通インフラを最大限に活かすための補完的な施策として評価できます。
まとめ
宇都宮市の立地適正化計画の中間評価結果から明らかになったのは、LRTをはじめとする交通インフラの整備は重要な基盤ではあるものの、それだけではコンパクトシティの実現には不十分だということです。
特に、都市機能や居住の誘導区域内への集約が思うように進んでいないことが大きな課題です。
LRT沿線では人口増加など一定の効果が見られるものの、市全体では人口減少が進む中で、いかにして誘導区域内への人口や都市機能の集約を進めるかが重要です。
コンパクトシティ構想を推進できないと、将来的に都市の持続可能性が危ぶまれることになるのは目に見えています!
これには、交通インフラ整備に加えて、土地利用規制の強化や税制・補助金などの政策的誘導、さらには魅力的な都市空間づくりなど、総合的なアプローチが必要です。
個人的には、誘導区域外に厳しい開発規制を行わないことには、インフレで庶民が苦しんでいる状況では、郊外の安い土地に需要が出てしまい、街の無秩序な拡散が続いてしまうと見ています。
今回の計画見直しでは、LRT沿線の更なる活性化に加え、鶴田駅周辺や岡本駅周辺など新たな都市機能誘導区域の設定や拡大、駅やバス停周辺でのコンビニやカフェ等の誘導など、より具体的な施策が盛り込まれています。
これらは、LRTという街の背骨となるインフラを活かしつつも、その限界を認識し、他の交通インフラも含め、結節点を単なる移動の場から、人々の活動が生まれる場として再定義する、新しいす試みとして評価できます。
宇都宮市では、少子高齢化が進み、すでに人口減少が始まっているため、どこかの段階でインフラの維持範囲を縮小せざる得ない、厳しい現実が訪れるでしょう。
しかし、高齢者の割合はこれからさらに上昇し、高齢になるほど変化を頑なに拒むことを考えると、人口減少する地方都市において街をコンパクトに集約させるのは至難の技です。
立地適正化計画も住民の反発を恐れず、大きな政治決断ができなければ、『絵に描いた餅』になる可能性が高いでしょう。
突然の災害や更新不良により、インフラが支障をきたし、一向に復旧が進まず、放置され、泣く泣く移住を余儀なくされるような事態だけは避けてほしいですね😅
今回取り上げた資料詳細が気になる皆さまは、下記リンクより直接内容をご確認ください。
→詳細資料_第99回宇都宮市都市計画審議会資料「宇都宮市立地適正化計画」の中間評価・見直しについて(2024年7月1日)
★荻原功太朗の業務について★
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