高市政権が21.3兆円の経済対策を閣議決定したものの、財務省案を「しょぼすぎる」と突き返し、野党の要望まで取り込んで規模を膨らませました。
記事リンク→経済対策の財務省案「しょぼすぎる」 高市首相が認めず、自ら上乗せ(日本経済新聞)
その裏側には、深刻な財政状況があります。
そして、日銀が利上げを先送りしたことで円安が進行し、投資家が日本国債を売却。
結果、国債利回りが急上昇しています。
記事リンク→超長期利回り最高水準 巨額補正議論、財政悪化に強まる懸念(日本経済新聞)
地方銀行は国債含み損が前年比2倍の3兆円に達し、融資余力を失いつつあります。
今回は、この金融環境の激変が、宇都宮市のLRT西側延伸や駅前再開発に与える影響を、現場の視点から深く考察してみます。
目次
- 高市政権の21兆円経済対策が示す「金利のある世界」の限界
- 「円安→物価高→金利急上昇」の悪循環
- 地方銀行が「お金を貸せない」深刻な事態に
- これまでの再開発の仕組みが崩壊している
- LRT西側延伸と駅前再開発に迫る現実
- 住宅ローン金利上昇で実需の購入力はさらに低下
- エリア別の不動産相場への影響予測
- まとめ
高市政権の21兆円経済対策が示す「金利のある世界」の限界
2025年11月21日、高市政権は21.3兆円規模の経済対策を閣議決定しました。
しかし、この過程で明らかになりつつあるのは、金利のある世界に戻った日本が、もはや地方への補助金を維持できなくなりそうだとういう、厳しい現実です。
財務省が当初まとめた原案は一般会計で14兆円程度、減税を含めて17兆円規模というものでした。
これを見た高市首相は「しょぼいどころではない。やり直し」と財務省に突き返したといいます。
最終的に21.3兆円まで規模が拡大されましたが、この財政支出を賄うために、国債をさらに発行しなければなりません。
では、なぜこれが地方の不動産市場にとって致命的なのでしょうか。
国債発行額が増えれば増えるほど、国債利回りはさらに上昇してしまいます。
国債利回りが上昇すれば、国の利払い負担が急増し、誰が首相になろうとも、予算の圧縮が不可欠な状況に追い込まれます。
当然ですが、地方への補助金も削減せざるを得ない方向に向かいます。
かつてのゼロ金利時代であれば、何百兆円の国債を発行しても利払い費はわずかでした。
しかし、金利が1%上がれば、1000兆円の国債残高に対して年間10兆円もの追加負担が発生します。
そして、この利払い負担は医療・介護・年金などの社会保障費と同じく、削減できない「固定費」として国の予算を圧迫します。
その結果、真っ先に削られる可能性が高いのが、地方の再開発予算です。
金利のある世界となった今、国の援助なしに地方の大型開発は成立しないというのが厳しい現実です。
その結果、既存インフラの維持整備に重点が置かれ、新たな再開発の予算は急速に先細る懸念が出始めています。
「円安→物価高→金利急上昇」の悪循環
日銀は金利を上げるタイミングを慎重に見極めています。
植田総裁は高市首相や片山財務相と会談を重ねていますが、利上げを急ぐ様子はまったく見られません。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
日銀が利上げを先送りすればするほど、円安が進行します。
高市総理の誕生から、足元では1ドル=157円程度と、数ヶ月前から10円ほど円安になりました。
更に、円安が進むとどうなるのでしょうか。
輸入品の価格が上がり、ガソリンも食料品も値上がりします。
私たちの生活コストが上昇し、物価高が加速するのは確実です。
植田総裁も国会で「根強い円安が物価上昇率に影響する」と認めています。
そして、物価高が続けば、最終的には日銀も利上げせざるを得なくなります。
しかし、利上げを先送りすればするほど、いざ上げる時には大幅な利上げが必要になってしまうのです。
これを分かりやすく例えるなら、「小さな傷のうちに治療すれば簡単だったのに、放置したために大手術が必要になる」ようなものです。
実際、国内外問わず国債の買い手である投資家からは、日本政府が財政支出を拡大し、日銀が金利を上げないという状況を見て、「日本の国債は危ない」と判断し始めています。
その結果、国債が売られ、国債利回りが急上昇しているのです。
つまり、日銀が利上げを先送りすることで、かえって金利が急上昇するという皮肉な状況が生まれつつあります。
地方銀行が「お金を貸せない」深刻な事態に
そして、この金利上昇が地方経済に与える影響は極めて深刻です。
2025年4〜9月期の地方銀行の決算で明らかになったのは、保有している国債の含み損が前年の2倍、計3兆円に達したという衝撃的な事実です。
記事リンク→地銀の国内債含み損、2倍の3兆円 上位行は損切りも下位にリスク蓄積(日本経済新聞)
なぜ地方銀行が国債を大量に持っているのか。
地方では人口減少で、お金を借りる企業や個人が減っています。そのため、地方銀行は皆さんから預かったお金を国債で運用してきました。ゼロ金利時代には金利がほとんどつかなくても、安全な運用先だったからです。
ところが、金利が上がると国債の価格は下がります。
例えば100万円で買った国債が、金利上昇で95万円の価値に下がる。この5万円分が「含み損」です。満期まで持っていれば損はしませんが、会計上は損失として記録され、銀行経営を圧迫します。
そして、この含み損が地方銀行全体で3兆円に膨らんでいるのです。
何が起こるのか
含み損を抱えた地方銀行は、新たにお金を貸し出す余力が減ってしまいます。
体力のある大手銀行なら損失覚悟で国債を売却できますが、中小の地方銀行にはそんな体力はありません。
損切りもできず、新しい融資もできない。まさに身動きが取れない状態に追い込まれています。
この結果、地元の不動産開発や住宅ローンへの融資が細っていきます。
過去のブログでお伝えしたように、地銀の融資の5割以上が既に地元以外に流出していますが、この傾向はさらに加速するでしょう。
過去ログ→【地銀の融資方針変化が宇都宮市の不動産開発に与える深刻な影響!】地元資金の都市部流出で再開発はますます困難に!?
宇都宮市のような地方都市で、「地元の銀行からお金が借りられない」という事態が現実になりつつあるのです。
これまでの再開発の仕組みが崩壊している
ここで、地方の再開発がどのように進められてきたのか、そしてなぜそれが成り立たなくなったのかを、わかりやすく説明します。
これまでの再開発の流れ(ゼロ金利時代)
例えば、700億円の再開発プロジェクトがあったとします。
1. 国が350億円を補助してくれる(事業費の半分)
2. 残り350億円は地元(市と県)が借金(地方債)で用意
3. でも金利がほぼゼロだから、利息負担はわずか
4. 建設会社が工事を受注して完成
5. 地元は30年かけてゆっくり返済
この仕組みの最大のポイントは何だったのでしょうか。
それは、国が半分出してくれること、そして借金の利息がほとんどかからなかったことです。
350億円を借りても、ゼロ金利なら30年間の利息はほとんどありません。だから、実質的な地元負担は350億円で済んでいたのです。
金利のある世界で何が変わっていくのか
しかし、金利が上がった今、状況は一変していきます。
1. 国の財政が厳しくなり、補助金が減る可能性
(例:350億円→200億円に削減)
2. 地元の借金が増える
(350億円→500億円)
3. 金利が2%になると、利息だけで莫大な負担
500億円×2%×30年 = 約300億円の利息
4. 建設会社も人件費・資材高騰で受注できない
5. 結果:計画が進まない、または中止
つまり、実質的な地元負担はこうなります:
- ゼロ金利時代: 350億円
- 金利2%時代(国の補助そのまま): 350億円 + 利息210億円 = 560億円
- 金利2%時代(国の補助削減): 500億円 + 利息300億円 = 800億円
地元負担が2倍以上に膨らんでしまうのです。
つまり、三重苦
- 国の補助金が減る
- 金利負担が重くなる
- 地方銀行も融資できない
この三つが重なることで、地方の再開発は事実上不可能になりつつあるのです。
LRT西側延伸と駅前再開発に迫る現実
このような金融環境の激変が、宇都宮市のLRT西側延伸や駅前再開発に与える影響を考えてみましょう。
2025年10月20日、宇都宮市はLRT西側延伸について、開業時期を2036年3月とし、概算工事費は税抜き698億円(税込み約770億円)と見込んだと公表しました。
当初の総事業費約400億円から約700億円へと1.75倍に膨らんでいます。
私が最も懸念しているのは、金利負担と国の援助削減が宇都宮市の負担を何倍にも膨らませることです。
宇都宮市の実質負担はどうなるのか
まず、宇都宮市の負担を計算してみましょう。
当初計画(総事業費400億円の場合):
- 国の補助: 200億円(50%)
- 栃木県の負担: 約100億円(25%)
- 宇都宮市の負担: 約100億円(25%)
- 金利負担: ほぼゼロ(ゼロ金利時代)
- 宇都宮市の実質負担: 約100億円
現在の計画(総事業費770億円、国の補助50%維持の場合):
- 国の補助: 385億円(50%)
- 栃木県と宇都宮市で負担: 385億円
- 宇都宮市の負担: 約193億円(残りの半分と仮定)
- 金利2%で30年返済の利払い費: 約116億円
- 宇都宮市の実質負担: 約309億円(当初の3.1倍)
最悪のシナリオ(国の補助が30%に削減された場合):
- 国の補助: 231億円(30%)
- 栃木県と宇都宮市で負担: 539億円
- 宇都宮市の負担: 約270億円(残りの半分と仮定)
- 金利2%で30年返済の利払い費: 約162億円
- 宇都宮市の実質負担: 約432億円(当初の4.3倍)
運賃値上げでカバーできるのか
では、この負担増を運賃収入でカバーできるのか、簡易シミュレートしてみます。
宇都宮市の負担が100億円から432億円に増えた場合、追加で332億円を調達する必要があります。
LRT東側区間の現在の初乗り運賃は150円です。
仮に西側延伸でも同程度の利用者数(年間500万人と仮定)があったとして、30年間で332億円を回収するには:
332億円 ÷ 30年 ÷ 500万人 = 年間一人あたり約222円の追加負担
つまり、初乗り運賃を150円から370円に値上げする必要があります。2.5倍です。
これは現実的でしょうか。
おそらく利用者は激減し、運賃収入は大きく減少するでしょう。
結局、この負担増は市民の税金で賄うしかなくなります。
国からの援助なしに、地方単独でLRTを整備することは不可能なのです。
現状、宇都宮駅東口再開発エリアの高層ハイブランドホテル計画は、建設費高騰で事実上の計画凍結状態にあります。
中心市街地で再開発中のホテル(丸井宇都宮跡地)も公金の補助があることで再開発に踏み切れたのは間違いありません。
過去ログ→【✨️朗報!✨️大通り「丸井宇都宮」跡が再開発されホテルへ!】 LRT西側延伸で、中心市街地にかつての活気は戻るのか!?
国からの支援が厳しくなり、同時に金利負担が重くなる。
この二つが重なることで、地方の再開発は完全に行き詰まる可能性が高まっています。
住宅ローン金利上昇で実需の購入力はさらに低下
一方、個人の住宅購入にも深刻な影響が出ます。
住宅ローンの金利も上がらざるを得ず、実需の購入限界金額はさらに下がり、新築へのアクセスはさらに遠のくでしょう。
過去のブログで警鐘を鳴らしたペアローンのリスクも、金利上昇で一層高まります。
過去ログ→【ペアローンで住宅購入、ちょっとまって!】宇都宮市内でもペアローンが急増中!17年ぶり金利上昇でリスクは最大級に!?
17年ぶりの金利上昇局面でペアローンを組んだ世帯は、変動金利の上昇により返済負担が急増するリスクに晒されています。
日本全体の不動産マーケット全体として、実需の購入限界が迫っており、相場はピークに近いと見ています。
高い金利負担で採算が取れる新規の開発は、富裕層向けの東京都心くらいだけになりつつあります。
現場で接するお客様からは、「新築マンションの価格が高すぎて手が出ない」という声が増えています。
そうした層が中古物件市場に大量に流入することで、程度の良い中古物件の価格は上昇圧力がかかる一方、新築の供給は制限されるという、私が20年以上不動産業に従事し、初めて経験する未知の事態が起こっています。
エリア別の不動産相場への影響予測
では、宇都宮市内のエリア別に不動産相場への影響について予測してみましょう。
JR宇都宮駅徒歩5分圏内
このエリアは引き続き堅調に推移すると予想されます。マンションデベロッパーも駅徒歩5分圏内に開発を限定する方針を示している会社が増えており、供給が制限されることで希少性が高まります。
ただし、金利上昇により購入層の購買力は確実に低下するため、価格の急激な上昇は期待できません。むしろ、横ばいから緩やかな上昇にとどまると予想されます。
駅東側LRT沿線エリア
西側延伸の延期により、相対的な優位性が高まります。限られた投資資金が東側に集中することで、緩やかな上昇基調は続くと予想されます。
しかし、「LRT効果」への過度な期待が修正されることで、これまでのような急激な上昇は期待できません。実需ベースの堅実な需要に支えられた相場形成となるでしょう。
駅西側(東武百貨店くらいまでの中心市街地)
横ばいからやや下落の可能性があります。LRT西側延伸への期待が後退し、東武百貨店の先行きも不透明な中、投資家の関心は確実に薄れてきているのを現場で感じています。
現在このエリアに物件をお持ちの方は、売却タイミングを慎重に検討される必要があるかもしれません。
駅西側(東武百貨店から先の延伸予定エリア)
残念ながら緩やかな下落トレンドに入ると考えています。延伸計画を織り込んで形成されていた価格が、実需に基づいた本来の水準に向けて調整されることになるでしょう。
LRT延伸延期とともに、路線バスの維持が先行き不透明なのもこのエリアには効いてきます。運転手不足でバス路線崩壊のリスクが高まっている現状では、公共交通アクセスの悪化が不動産価値の下落要因となります。
まとめ
国債利回りの急上昇と地銀の融資余力喪失は、宇都宮市の不動産市場に深刻な影響を与えつつあります。
しかし、最も深刻なのは金利負担の重さと国の援助削減が同時に進行しそうなことです。
ゼロ金利時代には、700億円のプロジェクトでも国が350億円を補助し、残り350億円を借りても利払い費はわずかでした。
しかし、金利2%の世界では210億円もの利払い費が発生し、さらに国の補助が削減されれば、地元負担は2倍以上に膨らみます。
LRT西側延伸や駅前再開発プロジェクトは、この金利負担と国の援助削減のダブルパンチにより、極めて厳しい状況に追い込まれる可能性が高まっています。
また金利負担だけでも大変なのに、さらに工期が延びれば延びるほどコストが増大し、最終的には計画の大幅な見直しや凍結も現実味を帯びてきます。
一方、住宅ローン金利の上昇により、実需層の購買力は確実に低下しています。
新築へのアクセスはさらに遠のき、富裕層向けの東京都心以外では、金利負担で採算が取れる開発は限定的になりつつあります。
このような環境下で、不動産投資や住宅購入を検討される際は、「いつか延伸される」「いつか再開発される」という淡い期待ではなく、国の援助が得られるか、金利負担に耐えられるかという現実的な市場分析に基づいた判断が必要です。
駅至近の確実性の高い立地、既に実績のあるLRT東側沿線など、リスクの低いエリアを選択することが、堅実な投資戦略となります。
私が宇都宮市で日々感じているのは、金利のある世界に戻ったことで、国の援助なしには地方の大型開発は成立しないという厳しい現実です。
20年以上この業界で仕事をしてきましたが、これほど短期間に前提条件が変わる局面は初めてかもしれません。
だからこそ、表面的な開発計画や期待値だけでなく、金利負担の重さと国の財政状況を冷静に見極めることが、これまで以上に重要になってくるのではないでしょうか。
今回の内容が、皆さまのお役に立てば幸いです🙌
本記事は2025年11月22日時点の情報に基づいています
★荻原功太朗の業務について★
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