老朽化が深刻な栃木県立病院の再整備に向けた動きが本格化しています。
記事リンク→県立病院、がんセンター、岡本台を再整備、専門性維持し総合化へ(日本工業経済新聞)
しかし、全国で公共施設の入札不調が続出する中、計画通りに進むかは極めて不透明です。
宇都宮市への財政負担要求も浮上し、LRT西側延伸と同様、建設コスト高騰という壁が立ちはだかっています。
今回は、この問題が宇都宮市の不動産市場に与える影響を深掘りしてみます。
目次
- 深刻化する県立病院の老朽化問題
- 宇都宮市への財政負担要求という爆弾
- 全国で続出する入札不調の現実
- 不動産市場への影響:医療アクセスが価値を決める時代へ
- まとめ:計画と現実のギャップを直視する
深刻化する県立病院の老朽化問題
2025年10月27日、第1回県立病院あり方検討有識者会議が開催され、栃木県立病院の再整備に向けた方向性が示されました。
今後5〜10年以内に再整備が見込まれるのは、宇都宮市内にあるがんセンター(陽南4丁目)と岡本台病院(下岡本町)の2施設です。
病院の建物は法定耐用年数が39年とされていますが、がんセンターの本館は築39年、管理棟は54年、研究棟は49年が経過。
岡本台病院も入院病棟が35年、作業治療棟は58年、給食棟は46年と、いずれも老朽化が深刻な状況です。
日常業務に支障をきたすほどの老朽化
問題なのは、単なる「古い」という話ではなく、すでに診療に影響が出ているという点です。
がんセンターでは、排水管の詰まりで広範囲の給排水機能が停止し、使用可能な病床に制限が出ています。
手術室前の廊下では蒸気漏れが発生し、修繕までの間、手術室への入室経路の変更を余儀なくされました。
さらに、局地的な大雨で雨水が侵入したり、モーターの劣化による排気ファンからの発煙、給湯管の破裂で一時的に給湯が停止するなど、次々と不具合が発生しています。
福田富一知事も「がんセンターと岡本台病院は老朽化が深刻で早急な再整備が必要」と発言しており、県としても危機感を持っていることは間違いありません。
では、すぐに建て替えが進むのでしょうか。
私が現場で感じている実感としては、公共性の高い施設であっても簡単に再開発できない時代に突入しているように思えてなりません。
宇都宮市への財政負担要求という爆弾
2025年11月28日の県議会代表質問で、興味深い答弁がありました。
県執行部は、整備地として有力視される宇都宮市に対し「一定の役割を果たしてもらうよう意見交換を図る」と答弁したのです。
これは事実上、宇都宮市に財政負担を求めることを視野に入れた発言と言えるでしょう。
市民病院のない中核市という特殊事情
ここで重要なのは、宇都宮市が市民病院を持たない中核市だという点です。
全国62の中核市のうち、市民病院を持たないのはわずか10市程度。
宇都宮市はその少数派に属しています。
記事リンク→栃木県立病院再整備 県が宇都宮市に「一定の役割」期待、財政負担を視野に 市民病院ない中核市は少数(下野新聞)
県執行部の発言には、「病院整備により宇都宮市が受ける恩恵を念頭に、市の協力を求める」という意図が透けて見えます。
つまり、「宇都宮市民が最も恩恵を受けるのだから、応分の負担をしてほしい」というロジックです。
財政負担は他のインフラ整備にも影響
ここで私が懸念するのは、仮に宇都宮市が県立病院再整備に財政負担を行った場合、他のインフラ整備への影響です。
宇都宮市は現在、LRT西側延伸という大型プロジェクトを抱えています。
当初400億円だった事業費が700億円に膨張し、開業時期も2036年に延期されました。
限られた財源の中で、病院再整備への負担が加われば、LRT西側延伸やJR宇都宮駅西口の再開発など、他のプロジェクトの優先順位にも影響が出てくる可能性があります。
「選択と集中」という言葉がよく使われますが、もはや選択せざるを得ない時代になったのかもしれません。
全国で続出する入札不調の現実
計画があっても実現できない。
その最大の理由は、建設費の高騰と入札不調の続出です。
全国で「建てたくても建てられない」事態が続出
このブログでも繰り返しお伝えしてきましたが、今、全国で公共施設の入札不調が相次いでいます。
過去ログ→【全国で公共工事のストップが続出!都心マンションバブルでも供給減!】つくれない時代が宇都宮市の不動産に与える影響とは?
千葉県船橋市の市立医療センターは基本計画時の約2倍の予定価格でも応札ゼロ。
北海道岩見沢市は病床規模を縮小、高松市は市民病院分院の移転新築を断念しました。
記事リンク→27年度開院予定も…着工の見通し立たず 船橋市、新病院建設で再検証 人件費や資材高騰で入札不調(東京新聞)
学校建設でも、奈良市やさいたま市で入札不調が続出し、開校予定が大幅に遅れる事態となっていて、必要なインフラが整備できないことで生活に大きな支障きたしています。
背景にあるのは、人件費・資材費の高騰と人手不足です。
建設会社は「受ければ受けるほど赤字になる案件」を避ける選別受注を進めており、特に予算の柔軟性に乏しい公共工事は敬遠される傾向が強まっています。
栃木県内でも入札不調は発生
実は、栃木県内でもすでに入札不調は発生しています。
那須塩原市の新庁舎工事では、共同企業体1者が辞退し入札不調となりました。
見直しを検討し再公告へと進んでいますが、全国的な傾向を見れば、今後も同様の事態が起きる可能性は十分にあります。
県立病院の再整備も、計画を立てることと実際に建設できることは、まったく別の問題なのです。
不動産市場への影響:医療アクセスが価値を決める時代へ
では、この状況は宇都宮市の不動産市場にどのような影響を与えるのでしょうか。
医療施設の集約が進む
有識者会議では、がんセンターと岡本台病院について「専門性を残しつつ、総合病院化し統合再編するのが望ましい」との意見が集約されました。
現在、宇都宮医療圏では済生会宇都宮病院、NHO栃木医療センター、宇都宮記念病院、JCHOうつのみや病院、NHO宇都宮病院の5カ所で救急搬送の約88%を対応しています。
2040年の地域医療を見据え、医療機能の分化と再編・統合が進められる中で、医療施設は都市部への集約がさらに進むことが予想されます。
再整備の行方が周辺エリアの価値を左右する
現在のがんセンターは陽南4丁目、岡本台病院は下岡本町に立地しています。
有識者会議では「総合病院化し統合再編するのが望ましい」との意見が出ていますが、具体的にどのような形で再整備されるのか、既存地での建て替えなのか、新たな整備地が選定されるのかは、まだ明らかになっていません。
記事リンク→栃木県立3病院、総合病院化でおおむね一致 有識者会議が初会合 必要な機能絞り込みへ(下野新聞)
記事リンク→3県立病院の「総合病院化も選択肢」、栃木知事が将来構想で答弁(朝日新聞)
ただ、いずれの形であっても、大規模な医療施設の存在は周辺の住宅需要を確実に押し上げます。
少子高齢化が進む中、不動産の取引現場では、「医療へのアクセスの良さ」が住まい選びの最重要条件の一つになっていく傾向が強まっています。
再整備の具体的な方向性が見えてくれば、周辺エリアの不動産価値にも影響が出てくる可能性があるため、今後の動向を注視していく必要がありそうです。
郊外では「かかりつけ医」の減少リスクも
一方で、医療施設の統合・集約が進めば、郊外ではかかりつけクリニックの減少が加速する可能性があります。
以前のブログでもお伝えしましたが、全国の病院の約7割が赤字経営に陥っている中で、地方や郊外の小規模クリニックは次々と閉鎖に追い込まれています。
宇都宮市内でも、JR宇都宮駅周辺や大通り沿いなど、複数のクリニックが徒歩圏内にある地域と、郊外で医療アクセスが困難な地域との二極化がさらに進むことになりそうです。
過去ログ→国立大病院の赤字が年間400億円超えで、破綻状態に!?医療へのアクセス困難が宇都宮市の不動産にもたらす影響とは!?
まとめ:計画と現実のギャップを直視する
県立病院の再整備は、老朽化の深刻さを考えれば待ったなしの課題です。
排水管の詰まりで病床に制限が出たり、手術室前で蒸気漏れが発生するなど、すでに診療に影響が出ている現状を放置し続けるわけにはいきません。
しかし、計画を進めようとしても、全国で入札不調が続出する「建てたくても建てられない時代」に突入しています。
さらに、宇都宮市への財政負担要求が浮上すれば、LRT西側延伸など他のプロジェクトとの優先順位も問われることになります。
不動産市場への影響という観点では、再整備の具体的な方向性が見えてくれば、周辺エリアの価値にも変化が出てくる可能性があります。
また、医療施設の統合・集約が進む中で、都市部と郊外の二極化はさらに進むことが予想されます。
私が現場で感じているのは、「医療へのアクセス」が不動産選びの重要な基準になりつつあるということです。
特に高齢の方からは「病院が近い場所に住み替えたい」というご相談が確実に増えています。
県立病院再整備の行方は、宇都宮市民の住まい選びにも直結する問題です。
今後の動向を引き続き注目していきたいと思います。
今回の内容が、皆さまのお役に立てば幸いです🙌
本記事は2025年11月30日時点の情報に基づいています
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