新たなホテルの開発は、街にとって大きな期待が持てますが、現実的に多くの再開発が補助金頼みとなっており、さらに昨今は建築コスト増と、人手不足による供給制約の影響が深刻になり始めています。
日経の調査では進行中の再開発事業の約8割で遅延や費用増加が発生しています。
→都市再開発、8割で遅れや費用増 後楽園やさいたま 岐路に立つ再開発(日本経済新聞)
建設業界の構造的問題により、今後10年間で宇都宮市の中心市街地はどう変わっていくのでしょうか?
また、これらの変化は不動産相場にどのような影響をもたらすのでしょうか?
今回は、今後10年にわたり、宇都宮市の中心市街地がどのように変化していくのか、そして、今後予想される中心市街地の不動産相場について大胆に予測したいと思います。
宇都宮市内の一等地の不動産を所有する資産家の皆さんの傾向を踏まえた、現実的な予測をしますので、お時間ありましたら、ぜひお付き合いください🙌
2025-2028年:再開発の限界と初期変化
建設の供給制約が再開発を直撃
日経の記事でも明らかなように、建設業界の構造的な供給制約が本格的に再開発計画に影響を与え始めています。
建設技能者の高齢化と減少は深刻で、国土交通省の調査によれば2025年には建設就業者の約3割が65歳以上となり、高層ビル建設に不可欠な専門職の不足が顕著になります。
宇都宮市内でもこれから予定されている、大型再開発計画の中止や大幅な縮小が予想され、建設資材の価格高騰も相まって、計画の多くが実現困難で、現実路線への軌道修正を余儀なくされるでしょう。
空きビル活用の暫定策が広がる
採算に乗るような新規建設の困難さから、空きビルを最小限の改修で暫定利用する動きが主流になると予想されます。
中心市街地の不動産所有者の多くは地元の資産家や法人オーナーであり、短期的な収益よりも長期的な資産価値を重視する傾向があります。
そのため、空きビルでも安易な賃料下落ではなく、戦略的な用途転換や部分的リノベーションを選択するケースが増えるでしょう。
宇都宮市中心部では、かつての百貨店や専門店ビルの一部フロアだけを活用する「部分利用」や、短期賃貸・ポップアップ店舗など「暫定的な活用」へのシフトが加速しそうです。
中心市街地では、2030年目標のLRT延伸計画があるものの実現の見通しが不透明な中、延伸を見越した土地の集約や将来の開発に向けた準備が進められるでしょう。
不動産市場の二層化
これから数年で、中心市街地の不動産市場は明確に二層化していくと見ています。
一つは富裕層や機関投資家が関心を持つ優良物件市場で、もう一つは収益性の低下した物件市場です。
大通りに面した好立地の物件は、延伸が予定される西側沿線のエリアでは、所有者が売却を急がないため市場に出回る数が限られ、適正な価格水準が維持されることが予想されます。
一方、立地条件の劣る物件や大規模修繕が必要な老朽化物件は徐々に市場価値が低下しますが、多くの所有者は十分な資金力を持つため、無理な売却を避け保有を続けるでしょう。
結果として、表面上の取引価格は大きく下落せず、代わりに取引量が減少する「流動性の低下」という形で市場調整が進むと予想しています。
西側エリア全体では2030年目標のLRT延伸計画があるものの、計画の後れが続くようなことがあれば、実現性への懐疑的な見方が広がり、投資が控えられてしまうでしょう。
中心市街地と西側沿線エリアでは「延伸待ち」という停滞状態が長期化する恐れがあります。
2028-2032年:延伸計画の現実化と市場変化
延伸計画の具体性による二極化
2028年頃になると、LRT西側延伸計画の実現可能性や具体的なスケジュールがより明確になり、不動産市場にも変化が現れ始めます。
延伸計画が予定通り進む場合、予定路線沿いの物件では投資意欲が高まる一方、計画が遅延する場合には市場の停滞感が強まるでしょう。
特に、延伸計画の不確実性が高まれば、西側エリア全体で「様子見」状態が長期化し、一部の物件では老朽化対策の遅れによる空きビル問題が深刻化する可能性もあります。
所有者の世代交代による変化
この時期、駅西側エリアの不動産所有者の世代交代が進み、不動産経営の方針にも変化が見られるようになると予想されます。(団塊世代の影響)
先代から引き継いだ若い世代の所有者は、短期的な収益性よりも「社会的価値」や「地域貢献」といった新たな観点を重視する傾向が強まるでしょう。
また、相続税対策の必要性から、一部の物件では売却や権利変換による資産の組み替えが行われるケースも増えると予想されます。
こうした世代交代は、西側エリアにとって長期的な停滞を打破するきっかけにもなり得る要素なので、この点は期待しています。
老朽建築物の選別と対応分化
宇都宮市の中心市街地では、築30〜40年を経過した建物が多く、老朽化対応が喫緊の課題となります。
特に、構造体の更新が必要な物件では、LRT延伸を見据えた判断が迫られるでしょう。
延伸ルート確定区域では将来の再開発を見据えた最小限のメンテナンスにとどめる一方、延伸ルートから離れた区域では、長期的な利用を前提とした設備更新や用途転換が進むという「対応の二極化」が顕著になると予想できます。
また、所有者の財務状況によっても対応が分かれ、資金力のある所有者は戦略的な投資判断ができる一方、そうでない所有者は維持管理の縮小を余儀なくされ、建物解体、そのまま駐車場利用というケースも増えそうです。
2032-2035年:LRT延伸計画が左右する新たな段階
延伸計画の進捗状況で大きな違いが
LRT西側延伸が計画通り実現した場合、駅西側エリアは新たな発展段階に入ります!
特に停留所周辺では、交通利便性の向上を背景に不動産需要が回復し、複合的な都市機能の集積が進むでしょう。
しかし、現状では、2030年開業を目標としたLRT西側延伸が大幅に遅延するケースも十分に考えられます。
そのような状況では、不動産所有者の間で「延伸待ち」から「自立的発展」へと発想の転換が迫られます。
当初は延伸効果を期待していた所有者も、行政計画への過度な依存リスクを認識し、LRT延伸の有無にかかわらず成立する独自の価値創造に目を向けなければなりません。
特に延伸計画が具体性を失えば失うほど、「その日が来るまで待つ」姿勢から「今できることから始める」姿勢へのシフトが加速するでしょう。
延伸に依存しない価値創造
延伸計画の遅延が現実となってしまったら、大きな失望とともに、駅西エリアは独自の魅力創出を模索することが迫られることになります。
すでに資産価値が低下した物件では、大胆な用途転換や実験的な活用方法が試みられるでしょう。
しかし、現実的には、延伸待ちした時間に建設の供給制約がさらに高まってしまい、ハード面での改修には大きな困難が生じるでしょう。
バス路線の現状維持も困難なため、公共交通に過度に依存しない新たな価値を創造する動きが求められます。
中心市街地は、郊外に比べて土地価格が高く、駐車場の確保も難しいため、大規模な職住近接型の開発はハードルが高く、むしろ既存の都市機能を活かし、特定のニッチ市場をターゲットにした特色ある空間づくりが現実的な選択肢となるでしょう。
LRT延伸の期待が裏切らえることで生まれる協力関係
LRT延伸の期待が裏切られ、長期の遅延という共通課題に直面した場合、中心市街地の地権者間では新たな協働モデルが確立されていくことも考えられます。
所有者の世代交代が進むことで、個々の所有者単独では解決できない課題に対し、複数の地権者が連携して取り組む流れが生まれることが期待されます。
また、この頃になると、補助金づけの再開発も限界を迎え、従来の行政依存型のまちづくりから脱却し、民間主導で地域課題を解決する新たな仕組みづくりへと転換していくと予想されます。
地元の金融機関や企業が参画した地域再生ファンドの設立など、資金調達手法も多様化していく可能性があります。
今後の宇都宮市中心市街地エリアの不動産マーケット展望
1. 「価格調整と流動性の低下」
LRT延伸計画の不透明さを背景に、西側エリアの不動産市場は当面「調整局面」が続くと予想されます。
中心市街地の土地の多くは、ある程度以上の資産力がある皆さまが土地を所有しているため、短期的には物件の流動性低下が顕著となり、売り手と買い手の価格期待値の乖離が拡大するでしょう。
特に老朽化した中小規模のビルやでは、建築コストが上昇を続けることで、買い手側の慎重姿勢が強まり、実質的な市場価値が下落します。
一方、優良物件や再開発ポテンシャルの高い一等地は、所有者が売却を急がないため表面的な価格維持が続くものの、実質的な取引機会は減少するでしょう。
中心市街地の多くは、大手企業や地元の資産家所有の物件が多いことから、市場全体としては「名目価格の緩やかな下落」と「実質的な流動性の大幅低下」という形で調整が進み、公示地価と実勢価格の乖離が拡大することが予想されます。
2. 「収益性重視の選別投資」
不安定な市場環境の中、投資家は「延伸効果への期待」より「現実の収益性」を重視する傾向が強まると予想されます。
特にLRT延伸が大幅に遅延するシナリオとなった場合、「待ち」の姿勢から「今ある条件下での最適化」へと投資判断をシフトせざる得なくなります。
最小限の投資(解体)で安定した収益を確保できる用途への転換(駐車場)へ、リスクを抑えた堅実な投資判断が主流となり、結果的に街が100円パーキングだらけになってしまうことも起こり得ます。
また、従来型の街全体として「面的な再開発期待」から、小規模な「点的な価値向上」へと投資の方向性が変わり、個別物件ごとの収益改善策が模索される状況が続くでしょう。
3. 「所有コストと資金調達環境」
今後の不動産市場を大きく左右する要素として、所有コスト(固定資産税、メンテナンス費用、金利等)の上昇と資金調達環境の変化が挙げられます。
特に老朽物件を多く抱える宇都宮市の中心市街地エリアでは、定期的な安全対策や設備更新の負担が年々増加し、収益性の低下に拍車をかけるでしょう。
建物の解体コストも年々、上昇し続けることが予想されることから、古いビルのオーナーは難しい対応を迫らるでしょう。
これに金利上昇などの資金調達環境の変化が加わると、特に資金力に乏しい中小の不動産所有者にとっては厳しい状況となります。
おわりに
宇都宮市の中心市街地エリアの未来は、単純な「衰退」や「発展」という一方向の変化ではなく、より複雑で多様な変化の過程となる可能性が高いです。
特に2030年を目標とするLRTの西側延伸計画は、このエリアにとって大きな転換点となり得ますが、その実現性や時期については相当の不確実性を伴います。
現実的には建設の供給制約の壁が迫っており、過去の延長線上にある「拡大・成長」ではなく、経済的・社会的制約を織り込んだ「創造的縮小」の過程となる可能性が高いです。
重要なのは、過大な期待に基づく「待機」ではなく、年々悪化する制約条件を冷静に見据え、都市開発の進捗状況を確認しながら、「適応戦略」を早期に構築することです。
特に不動産所有者や事業者は、将来のコスト上昇を前提とした長期的視点に立ち、「所有から利用へ」の価値転換を早急に進めることが求められます。
今回の内容が皆さまのお役に立てば幸いです🙌
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