皆さま、こんにちは!サンプランの荻原功太朗です。
宇都宮市では長らくコンパクトシティ構想を掲げ、LRTを軸とした街づくりを進めてきました。
東側のLRTは開業から好調な利用実績を示しており、西側延伸にも期待が寄せられています。
しかし、最近の建設業界や不動産市場の動向を見ていると、理想的な都市計画と現実の間に大きなギャップが生まれてしまっているのが気になります。
今回は、地方都市が抱える構造的な問題について、現場で感じていることをお伝えしたいと思います。
建設費高騰の深刻な影響
まず驚かされるのが昨今の建設費の高騰ぶりです。
LRT西側延伸の事業費が当初の400億円から700億円へと1.7倍に膨らんだことは以前のブログでもお伝えしましたが、これは決してLRTだけの問題ではありません。
過去ログ→【宇都宮市のLRT西側延伸は物価高騰で事業費1.7倍に!】代替案も真剣に議論するべきタイミングか!?
材料費、人件費、工期の長期化、すべてが同時に進行している状況です。
鉄筋、コンクリート、木材といった基本的な建設資材の価格上昇に加えて、職人不足による人件費の急騰も重なっています。
10年前と比較すると建設費は1.5倍から2倍近くまで上昇しているのが実態です。
新築マンション供給の限界
この建設費高騰が最も顕著に現れているのが、新築マンション市場です。
過去ログ→【宇都宮市の不動産相場は天井を打ちつつある!?】分譲マンション販売にブレーキ!街の都心は更なるミクロな超2極化が進むのか?
年間供給戸数で見ると、2021年には376戸のマンション供給がありましたが、その後大幅に減少し、新規着工は極めて限定的な状況です。
現在販売中の新築マンションは9物件ですが、これらの多くは数年前から計画されていた既存プロジェクトの消化分です。
なぜここまで供給が制限されているのでしょうか。
答えは単純で、地方都市における新築マンション事業の採算性が根本的に成り立たなくなったからです。
建設費が大幅に上昇する一方で、宇都宮市のような地方都市では販売価格をそれに見合うだけ上げることができません。
地価水準や所得水準を考えると、首都圏と同じような価格設定は現実的ではないのです。
この状況は一時的な市況悪化ではなく、構造的な変化と考えるべきでしょう。
建設費上昇は長期トレンドであり、職人不足も今後さらに深刻化する見込みです。
つまり、地方都市における新築マンション供給は、今後も現在の低水準が続く可能性が高いということです。
結果として、デベロッパーも新規事業着手に極めて慎重になり、現在販売中の物件の多くは既存計画の消化分という状況になっています。
野村不動産、長谷工不動産、穴吹工務店といった大手も宇都宮市場に残ってはいますが、新規供給は大幅に絞り込んでいるのが実態です。
LRT延伸計画自体に大きな不確実性が・・
→新宿駅再開発の高層ビル 完成時期未定に 施工会社が決まらず(NHK)
日本一のターミナル駅である新宿駅の駅前再開発事業では、解体が終わっているのに、工事業者が見つからず、工事に着工ができない状況となり、3年後の2028年度としていた完成の時期も「未定」となっていることがわかりました。
東京都心部でさえ再開発プロジェクトが足踏み状態に陥っている現状を考えると、地方都市での大型インフラ事業の実現可能性について、より慎重に検討する段階なのは間違いありません。
再開発同様、建設費高騰の問題は、LRT西側延伸計画にも重くのしかかっています。
事業費が1.7倍に膨らんだということは、単なる予算オーバーではなく、現在の建設業界の構造的な制約を示しています。
工事を請け負う建設業者の確保、資材調達の困難、工期の長期化リスクなど、700億円という巨額事業を完遂するハードルは、年々高くなる一方です。
コンパクトシティ構想の前提崩れ
ここで重要なのは、コンパクトシティ構想の前提条件が根本から崩れようとしていることです。コンパクトシティは「公共交通の整備」と「沿線への住宅集約」が両輪となって初めて機能します。
しかし現実には、公共交通整備自体が建設費高騰で困難になり、仮に整備できても、沿線の不動産開発に物理的な制限が起こり始めている状況です。
さらに、既存の郊外住民が近隣誘導エリアや中心部のマンションに移住する動機も限定的です。
宇都宮市内でも郊外は土地が比較的安く、広い戸建て住宅を建てることができます。
日々マイカー移動で、郊外で快適な戸建て生活を送っている方々にとって、駐車場確保の難しさや管理費・修繕積立金の負担を考えると、わざわざ狭いマンションに高いお金を払って移り住む理由が見つからないのです。
高齢者の転居にしても、経済的な問題もあり、転居へのハードルは高くなる一方です。
戸建て分散居住の経済合理性
実際に不動産の現場で感じるのは、建築費の高騰で、戸建て住宅が地方都市において経済的に最も合理的な選択になっている現実です。
建設費高騰の影響を受けているのはマンションも戸建ても同様ですが、その影響度には大きな差があります。
マンションは高層建築特有の構造計算、エレベーター設備、共用部分の建設など、高度な技術と多くの職種が必要で、建設費高騰の直撃を受けます。
一方、戸建て住宅は比較的シンプルな構造で、地元工務店でも対応可能な工事内容です。
使用する資材量も限定的で、工期も短期間で済みます。
何より重要なのは、宇都宮市では土地取得コストが首都圏の数分の一で済むため、建設費上昇分を土地コストの安さで吸収できることです。
さらに、地元工務店による注文住宅システムは、大手デベロッパーのような大規模な営業体制や広告宣伝費が不要で、無駄なコストを削減できます。
お客様の個別ニーズに柔軟に対応でき、売れ残りリスクもゼロです。
結果として、同じ予算でマンションと戸建てを比較すると、戸建ての方が圧倒的に広い居住空間を確保でき、駐車場代も管理費も不要という、地方都市では理想的な住環境を実現できるのです。
これは単なる好みの問題ではなく、経済合理性に基づく必然的な選択傾向であり、規制がない以上、宇都宮市の思惑と異なり、さらなる住民の拡散が続いてしまいそうです。
インフラ維持の重い負担
もう忘れてしまっている方も多いかもしれませんが、埼玉県八潮市の道路陥没、下水道崩落事故ですが、復旧経費がなんと300億円にまで膨れ上り、大問題となっています。
→八潮陥没事故、復旧に300億円規模…知事「市町村の水道料金にかけるということでよいのか」(読売新聞)
コンパクトシティ構想が進まず、分散居住が続くことで、インフラ維持の負担も深刻化してきます。
人口が減少する中で、上下水道、道路、橋梁などの更新費用が1人当たりで急激に増大しているのです。
全国的に公共施設の統廃合も進んでいますが、それでも既存の膨大なインフラを維持するだけで、巨額の予算が必要です。
この状況で、さらに数百億円規模の新規インフラ投資を行うことの是非については、国の方針転換も含め、近いうちに大きな都市計画変更が迫られることも予想されます。
LRT東側の成功と西側の課題
宇都宮市のLRT東側区間は、全国的に見てもモデルケースとなる成功例と言えます。
利用者数も好調で、市民の評価も高く、街の活性化にも大きな効果を上げています。
しかし、この成功があるからこそ、西側延伸への期待も高まる一方で、現実的な制約も浮き彫りになっています。
東側の成功を西側でも再現したいのは当然ですが、建設費高騰という新たな制約条件の下では、同じ手法が通用するかは未知数です。
他の地方都市では、富山市や福井市のLRTが利用者数で苦戦している中、宇都宮市は公共交通政策としては成功している稀有な例です。
だからこそ、次のステップをどう進めるかが重要になってきますが、物理的な建築の供給制約の壁は恐ろしく高いです。
物理的制約が示す現実
コンパクトシティやLRT延伸の理念そのものは、宇都宮市のような地方都市が持続可能な成長を維持するために必要不可欠です。
むしろ、これらが実現すれば宇都宮にとって大きなプラスになることは間違いないでしょう。
しかし、現在直面しているのは、単なる予算不足や政策判断の問題ではありません。
過去ログ→【衝撃!建設業界が深刻な機能不全状態に!?】15兆円の工事が完了できない事態で、宇都宮の住宅市場にも大きな変化が!
建設業界の深刻な人手不足、資材価格の構造的上昇、工期の長期化など、膨大な15兆円以上の受注残等、物理的な制約が立ちはだかっているのです。
具体的には、LRT延伸のような大型インフラ工事を請け負える建設業者の確保が全国的に厳しくなっています。
東京都心部でさえ大型プロジェクトが工事業者不足で延期や中止に追い込まれている状況で、地方都市での700億円規模の工事を完遂できる体制を整えることは、現実的に極めて厳しくなっています。
これは「やる気」や「予算」の問題ではなく、日本の建設業界全体の供給能力の限界を示す、構造的な問題です。
つまり、私たちが望む・望まないに関わらず、従来の大型開発手法そのものが物理的に実行困難な時代に入っているということです。
制約に適応した新しいアプローチ
この現実を前に、私たちには二つの選択肢があります。
物理的に困難な従来手法にこだわり続けるか、現在すぐに実行可能な手法に軸足を移すかです。
従来手法にこだわった場合、工事の大幅な遅延や中止、事業費のさらなる膨張、最悪の場合は事業そのものが頓挫するリスクがあります。
また、限られた予算と貴重な時間、そして人材を困難な事業に集中させることで、他の必要な街づくり施策が後回しになってしまう可能性も考えられます。
特に人口減少が進む中では、時間的な余裕はそれほど残されていないのが現実です。
頭を切り替え、計画にこだわらず、すぐに実行可能な施策を選ぶとすれば、既存の住宅地を活かしながら、デジタル技術による効率的な公共サービス、地域コミュニティの機能強化、エネルギーの地産地消などを組み合わせた新たな街づくりへと着手できます。
これらは大型建設工事を必要とせず、段階的に実施できる利点があります。
何より重要なのは、即座に着手可能であることです。
既存のLRT路線の車両を増やしてサービスを向上させたり、沿線の不動産開発に力を入れるのもひとつです。
建設業者不足の影響を受けない要素であれば、来年度から具体的な取り組みを開始できることがあるはずです。
また、多くの地方都市が従来型の大型開発にこだわって足踏みしている中、宇都宮市が新しいアプローチを率先して取り組めば、他都市との差別化を図れる絶好の機会にもなるでしょう。
重要なのは、これが都市開発の「諦め」ではなく、物理的制約という現実に対する「適応」だということです。
時代の変化に合わせて柔軟に手法を変えることは、むしろ合理的で前向きな判断ではないでしょうか。
まとめ:スクラップアンドビルド時代の終焉と新たな選択
建設費高騰が示したのは、戦後日本の都市開発を支えた「スクラップアンドビルド」手法の限界です。(今は建物を解体するだけでも大変です。。)
コンパクトシティ構想も大規模な建設行為を前提としており、もはや気軽に「壊して建て直す」ことができない時代に入りました。
この構造的変化は一時的な問題ではありません。
だからこそ今すぐ行動を変える必要があるのではないでしょうか。
700億円の大型投資を待つのではなく、デジタル技術や既存資源を活用した(既存のLRT路線の利便性を向上等)「ストック活用型」施策なら来年度からでも着手可能です。
人口減少が進む中、時間的余裕は限られています。
理想を追い続けて貴重な時間と予算を浪費するより、実行可能な施策に即座に着手する。
それが宇都宮市の未来にとって最も賢い選択ではないでしょうか。
今回の内容が、皆さまの考えるきっかけの一助になれば幸いです🙌
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