皆さま、こんにちは。サンプランの荻原功太朗です。
前回のブログでは、長期金利の上昇がLRT西側延伸計画に与える影響についてお話しました。
過去ログ→【LRT西側延伸に新たな逆風が!?】長期国債の急激な利回り上昇は何をもたらすか?
今回は、この金利上昇が私たちの身近な不動産マーケットにどのような変化をもたらすのか、具体的に考察してみたいと思います。
金利上昇でも続く不動産投資の魅力?
現在の30年国債利回りは3%に迫る勢いですが、実はこれでもまだ物価上昇率の3.6%を下回っています。
→日銀が利上げ続ける理由は? マイナス圏続く実質金利(日本経済新聞)
つまり、金利のある世界になっとはいえ、実質金利はマイナスの状況が続いているのです。
この状況下では、現金を銀行に預けているよりも、優良な不動産に投資する方が資産価値の目減りを防げるという計算になります。
しかし、ここで重要なのは「優良な不動産」という条件です。
宇都宮市内で見えてきた不動産市場の明暗
最近の宇都宮市内の不動産動向を見ていると、興味深い現象が起きています。
まさに市場の「二極化」を超えた複雑な状況が急速に進んでいるのです。
勝ち組エリア:超限定的な需要集中
JR宇都宮駅周辺の超一等地では、興味深い現象が起きています。
宇都宮駅西口に直結する「アトラスタワー宇都宮」のような明らかな富裕層向け物件は発売と同時に即完売となる一方で、同じエリアでもJR宇都宮駅から少し離れた、大手デベロッパーの野村不動産「プラウド」シリーズは即完売とはいかず、販売に苦戦している状況です。
これは富裕層の投資行動が極めて選択的になっていることを示しています。
「駅直結」「最上階」「1億円超」といった明確な差別化要素がない限り、たとえ宇都宮市内の一等地であっても簡単には売れない時代になったということです。
戸建て市場でも同様の現象が見られます。
駅徒歩5分以内の新築戸建てで、土地面積200㎡超、建物延床面積150㎡超といった富裕層仕様の物件は比較的順調に売れています。
しかし、同じエリアでも一般的なファミリー向けの新築戸建て(3000万円台)になると、売れ行きは明らかに鈍化しています。
購入者の多くは、東京や関東圏在住の投資家、宇都宮で事業を営む経営者層、そして意外なことに相続対策を考える地元資産家です。
これらの富裕層にとって、金利が多少上昇したところで購入判断にはほとんど影響がありません。
むしろ、インフレによる資産価値の目減りを防ぐため、「本当に価値のある」不動産への資金集中が加速していると見られます。
中間層:マンションも戸建ても厳しさが増す状況
一方で、一般的なファミリー向けマンションや戸建て住宅の市場では、様相が大きく異なります。
住宅ローン金利の上昇が、中間層の住宅購入に大きな影響を与えています。
2025年1月に日銀が政策金利を0.5%に引き上げたことを受け、多くの金融機関で4月から5月にかけて住宅ローン金利が相次いで上昇しました。
変動金利についても、これまでの「低水準維持」は終わりを告げました。
2025年5月現在、主要金融機関の変動金利は0.6~0.7%台となっており、2024年4月時点の0.3~0.4%台から大幅に上昇しています。
わずか1年で変動金利の相場が倍近くまで上がったことになります。
固定金利はさらに顕著で、35年固定のフラット35は2020年の1.3%程度から現在は2.0%を超える水準まで上昇しています。
金利上昇により住宅ローンの月々の返済額が増加し、一般的な会社員世帯にとって購入のハードルは、確実に上がってきています。
仮に4000万円の物件を35年ローンで購入する場合、金利が1%から2%に上昇すると、月々の返済額は約2万円も増加します。
年収600万円世帯にとって、この差は決して小さくありません。
価格重視層:中古マンション・中古住宅に新たな需要
興味深い現象が起きているのが、これまで「負け組エリア」とされていた郊外や築古物件の市場です。
中古マンション市場の変化 新築マンション価格の高騰により手が出なくなった実需層が、割安な中古マンションに流れ始めています。宇都宮市周辺部の住宅団地や、築20年を超える中古マンションでも、大幅な価格調整が進んだ結果、実際に住む目的の購入者からの引き合いが増えてきています。
特に注目すべきは、新築4000万円台のマンションを諦めた層が、築15~25年で2000万円台前半の中古マンションに向かっていることです。
中古戸建て市場も活況 戸建て市場でも同様の動きが見られます。築10~20年の中古戸建てで、新築時6000万円だった物件が3500万円~4000万円で売り出されると、意外に早く買い手がつくケースが増えています。特に、大手ハウスメーカー施工物件やリフォーム済みや設備が比較的新しい物件への関心が高まっています。
郊外の新築建売住宅(3000万円台)よりも、市内中心部に近い築浅中古戸建て(同価格帯)を選ぶ実需者が増えているのも特徴的です。「新築」という付加価値よりも「立地」や「実質的な住環境」を重視する傾向が強まっています。
金利上昇により月々の返済負担が重くなる中、「住宅ローンを組んでも無理のない範囲で」という現実的な判断をする人が増えています。
ただし、これらのエリアでも選別は厳しく、駅から徒歩圏内や車でのアクセスが良好な立地に需要が集中する一方、本当に不便な立地の物件は依然として厳しい状況が続いています。
なぜ市場の多層化が進んでいるのか?
この新たな市場動向の背景には、単純な金利上昇だけでなく、より構造的な変化があります。
まず、新築マンションの価格高騰が一般的な会社員世帯の購買力を大きく上回ってしまったことです。
年収600万円世帯では、4000万円超の新築マンションは金利上昇も相まって現実的な選択肢ではなくなりました。
次に、住宅購入者の行動変化があります。
以前なら「新築でないと」という価値観が強かった層も、金利負担を考慮すると「築浅中古で妥協する」「立地を重視して築年数は諦める」といった柔軟な判断をするようになっています。
さらに重要なのは、投資家と実需者の購入基準の違いが鮮明になったことです。
投資家は将来の資産価値を重視するため超一等地に集中しますが、実需者は「実際に住める範囲での最良の選択」を求めるため、価格が大幅に下がった割安物件にも魅力を感じるのです。
宇都宮市内の各市場層の特徴
現在の状況を踏まえると、宇都宮市内の不動産市場は大きく4つの市場層に分かれていると考えられます。
プレミアム市場(投資家・富裕層向け)
JR宇都宮駅から徒歩10分以内、東武宇都宮駅から徒歩5分以内といった駅至近エリアでも、選別は厳しくなっています。マンションなら「駅直結」「タワー仕様」、戸建てなら「200㎡超の敷地」「高級仕様」といった明確な差別化要素がないと、富裕層も簡単には手を出さない状況です。
標準市場(実需慎重層)
LRT西側延伸の不確実性を考えると、現在開業している駅東の沿線エリアは将来性有望です。このエリアでは、マンション・戸建てを問わず、価格と立地のバランスを慎重に検討する購入者が多くなっています。
バリュー市場(実需価格重視層)
意外に堅調なのが、大幅に価格調整が進んだ築15~25年の中古マンションや築10~20年の中古戸建てです。新築に手が出ない実需層が流れ込んでおり、立地条件が良ければ意外な買い手がつくケースが増えています。特に「築浅中古戸建て+リフォーム済み」の組み合わせが人気です。
ニッチ市場(特殊需要)
宇都宮大学周辺は、学生需要に加え、大学関係者や研究機関関係者の住宅需要が一定程度見込めるため、独自の市場を形成しています。このエリアでは、単身者向けのワンルームマンションから、研究者向けのファミリー戸建てまで、多様な需要があります。
本当に厳しいエリア:選別が一層厳しく
一方で、依然として厳しい状況が続いているのは以下のようなエリアです。
立地条件の厳しい物件
車がなければ生活が困難で、駅やバス停からも遠い郊外住宅地は、実需層にとっても現実的な選択肢ではなくなりつつあります。特に坂道が多く高齢者にとって住みにくい場所は、将来性への不安からも敬遠されがちです。
マンションの場合
築30年を超えて大規模修繕の負担が重い集合住宅、管理費・修繕積立金が高額な物件などは、価格を大幅に下げても買い手を見つけるのに時間がかかる状況が続いています。
戸建ての場合
接道条件が悪い(車での移動が不便)物件、建物の老朽化が著しい築40年超の物件、周辺環境が悪化しているエリアの戸建ては、解体費用を考慮すると土地値でも売れないケースが出てきています。
住宅購入を検討されている方へのアドバイス
このような市場変化の中で住宅購入を検討されている方には、以下の点をお勧めします。
新築にこだわる必要のない方は、築浅中古も視野に
新築価格の高騰により、同じ予算で築5~10年の物件なら格段に条件の良い物件が選べるケースが増えています。金利負担を考慮すると、築年数よりも立地や月々の支払い負担を重視する判断も合理的です。
価格重視なら、割安になった物件も狙い目
大幅に価格調整が進んだ築15~25年の物件の中には、実需者にとって魅力的な掘り出し物も出てきています。ただし、立地条件や建物の管理状況はしっかりとチェックが必要です。
無理は禁物、堅実な資金計画を
金利上昇局面では、借入額を抑えることが何より重要です。「買えるギリギリ」ではなく、金利がさらに上昇しても余裕を持って返済できる範囲での購入を心がけてください。
不動産投資を考えている皆さまへ
不動産投資を検討されている方にとって、現在の状況は従来以上に慎重な判断が求められます。
超一等地は資産価値は安定しているが利回りは低下
駅やLRT停留所至近の優良物件については、まだまだ需要が堅調で、インフレヘッジとしての機能も期待できます。ただし、価格はすでに相当高騰しており、表面利回りは決して魅力的ではありません。
中間層向け物件は見極めが重要
一般的なファミリー向け物件については、立地や築年数、設備について妥協のない物件選びが必要です。「そこそこ良い物件」では、金利上昇環境下で借り手を確保するのが困難になる可能性があります。
割安物件は実需との競合に注意
価格調整が進んだ物件についても、実需購入者との競合が激しくなっているため、投資用としての収益性をしっかり検証する必要があります。「安いから買う」の姿勢だけでなく、値上がりし続けるメンテナンスコストでも採算が取れるかどうかの判断が不可欠です。
まとめ:市場の多層化時代への対応
宇都宮市の不動産マーケットは、金利上昇という新たな環境変化により、確実に変わりつつあります。
現場では、当初予想されていた単純な「二極化」を超えて、より複雑な市場の多層化の様相を呈してきています。
プレミアム市場、標準市場、バリュー市場、そしてニッチ市場という4つの市場層それぞれで、異なる動きが見られるのが現在の特徴です。
興味深いのは、極端な新築至上主義だった日本の不動産マーケットにも、中古物件の一部に、新たな需要が生まれていることです。
新築価格の高騰により選択肢を狭められた実需層が、現実的な判断としてバリュー市場に向かっています。
「金利がある普通の世界線」に突入し、不動産の価値がより厳格に、そして多層的に評価されるようになっています。
画一的な「勝ち組・負け組」の判断ではなく、用途や予算、リスク許容度に応じた柔軟な物件選びが求められる時代になりました。
変化の激しい時代だからこそ、専門家目線でのアドバイスがますます重要になっていると実感します。
今回の内容が皆さまのお役にたてば幸いです🙌
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