地方都市の再開発は今、大きなジレンマに突入しています!
宇都宮市のような地方都市で行われると、都心部の再開発の多くには、多額の公金が投入されています。
そして、需要のあるタワーマンションが全国各地の地方都市の都心部で再開発され続けていますが、完成しても空き部屋ばかりになることが問題になっています。
実際の調査結果から、再開発されたタワーマンションは実需ではない、富裕層のセカンドハウスや投資物件として購入されているケースが散見し、利用されないままになっている物件が数多くあることがわかっています。
この問題に対し、神戸市では、タワーマンションの開発規制とともに、今度はタワマン空き家税のようなもの課税する動きも出ています。
→タワマン「空き部屋」課税は全国に拡大するのか? 神戸市が導入検討で賛否両論飛び交う(日刊ゲンダイ)
これは、タワマンでは、高層階ほど住民登録のない部屋の割合が高く、40階以上では33.7%に上る調査から、投機的な購入に対しての施策です。
今回は、これから再開発が予定されているJR宇都宮駅西口駅前、「西口大通り南地区」の案件についてこの点も踏まえ、深堀りしたいと思います。
宇都宮駅西口大通り南地区第一種市街地再開発事業とは?
この再開発については、以前速報で、お伝えしています。
過去ログ→【速報!JR宇都宮駅西口で新たな再開発が始動!?】地上30階建てタワーマンション複合ビルが2027年着工に!?
改めてこのプロジェクトの概要をざっとまとめます。
・建物の特徴
構造: 地上30階、地下1階の超高層複合ビル
高さ: 約110メートル
延床面積: 約36,400平方メートル
用途: 商業施設、オフィス、住宅(約270戸)
・事業スケジュール
都市計画決定: 2024年7月
着工予定: 2027年度
完成予定: 2029年度
施設構成
低層部(地上5階): 商業施設とオフィス
高層部(地上30階、地下1階): 1〜2階に商業施設、3階以上から住居
・開発の目的
この再開発は、宇都宮駅西口の老朽化した建物群を整理し、駅前にふさわしい新たな都市空間を創出することを目的としています。
ではここから、再開発予定の超高層複合ビルの建設に、巨額の公金が投入されることについての妥当性と問題点について様々な角度から検証していきます。
驚きの事業費!インフレで更なる高騰も
まず衝撃的なのが、その事業規模です。
当初の試算では、300〜320億円程度と見込まれると予想されます。
この内訳は以下の通りです。
建物本体の建設費用:約237-273億円
- 延床面積約36,400㎡
- 一般的な超高層複合ビルの建設単価:65-75万円/㎡
- その他経費(設計、補償等):全体の約20-30%
これは、類似規模の再開発事例と整合的な金額です。
- さいたま新都心駅前再開発(延床38,000㎡):約280億円
- 熊本駅前再開発(延床35,000㎡):約250億円
- 水戸駅前再開発(延床33,000㎡):約245億円
しかし、インフレによる建設業界を取り巻く環境の激変により、現在では365〜395億円にまで膨らむ可能性がでてきています。
様々な建築資材の値上がりはつづき、さらに、深刻な人手不足により技能工の人件費は約30%以上も上昇中です。
これに加えて、資材の輸送コストも上昇中です。
結果的に、巨額な再開発費用、365〜395億円のうち、実に210〜230億円もの公的資金が投入される見込みとなります。
これは再開発事業における一般的な公的負担割合に沿ったものから抽出した金額です。
国費:総事業費の約1/3
市費:総事業費の約1/6
県費:総事業費の約1/12
市の負担額だけでも60〜65億円と見込まれます。
市民一人当たりだと、約1.3万円の負担となります。
巨額投資の理由は?国費獲得の戦略的意義
金額だけ見ると、巨額の公費投入が目立ちますが、この巨額投資には宇都宮市としては、戦略的な意図があります。
総事業費の約3分の1、実に120〜130億円を国費として獲得できる見込みなのです。
これは宇都宮市が負担する額の約2倍です。
宇都宮市としては、再開発された建物からは毎年の固定資産税と、移住者からは住民税を得られます。
多額の公費を投入しても、投資に見合うリターンが見込めることから、宇都宮市としては、LRT整備同様、大きな国費を獲得する意味で再開発を推進するメリットがあるのです!
タワーマンションの分譲価格に驚愕!
計画の中核となる住宅部分(分譲マンション)には、約270戸の供給が予定されています。
現在、建築中の西口駅前のタワーマンション「アトラスタワー宇都宮」の平均坪単価は約290万円に達しています。
この価格水準と、今後のインフレを考慮すると、本計画の分譲価格は、80-100㎡クラスで7,000〜9,000万円(坪単価300-320万円)程度まで上昇する可能性があります。
現在、宇都宮市の新築分譲マンションの価格帯は、立地や規模にもよりますが、すでに4,500〜5,500万円程度まで上昇しています。
この再開発案件は、アトラスタワーの実例が示すように、立地条件や建物のグレードから、それを大きく上回る価格設定となることが予想されます。
しかし、一般市民には「高嶺の花」で、購入できるのは資金に余裕のある、富裕層がターゲットになります。
そのため全国各地で、このような地方都市のタワマン再開発に公金を投じ、富裕層向けの住宅を供給することへの疑問の声も上がっています。
国費活用で得られる戦略的メリット
国費の活用により、市の財政負担を最小限に抑えながら大規模な都市開発が可能となります。
市債発行の抑制にもつながり、財政の健全性を維持しつつ、福祉や教育など他の重要施策への予算も確保できます。
さらに重要なのは、この事業が北関東の中核都市としての宇都宮市の地位強化につながる点です。
駅前の大規模再開発は、単なる建物の更新にとどまらず、都市としての競争力を高める重要な機会となります。
特にLRT整備と組み合わせることで、環境に配慮した先進的な都市としてのブランド価値向上も期待できます。
また、公的資金の投入は民間投資を誘発する呼び水効果も期待できます。
実際、他の地方都市の再開発事例を見ると、駅前再開発を契機に周辺エリアへの民間投資が活性化するケースが多く見られます。
これは税収増加や雇用創出にもつながる重要な効果といえます。
加えて、この事業は防災性能の向上や都市インフラの更新という側面も持っています。
老朽化した建築物の更新は、災害に強い街づくりにも寄与します。
これらのインフラ整備に国費を活用できることは、市にとって大きなメリットとなります。
再開発に多額の公金を投入するジレンマ
このような地方都市の再開発事業には、地方特有のジレンマが存在します。
以下にまとめます。
メリット
- 国費という大型予算の獲得機会
- 老朽化した駅前の一体的更新
- 防災性能の向上
- 都市としての競争力強化
- 民間投資の誘発効果
デメリット
- 国費含め多額の公的負担
- 富裕層向け住宅への公金投入への批判
- 人口減少下での需要リスク
- 維持管理コストの負担増リスク
宇都宮市としては、街の顔となる駅前の区画を整理し景観を改善し、都市の競争力を上げる必要があります。
しかし、感情的に、富裕層をうまく取り込んで街の成長につなげることには、常に根強い抵抗があります。
インフレで庶民生活が困窮を極めるなかで、大半が国費とはいえ、多額の公金を富裕層向けの住宅に利用することには、今後、多くの反対が寄せられることが予想されます。
また、宇都宮市としては、この事業を単なる再開発ではなく、LRT網の整備と組み合わせた総合的な都市戦略として捉えることも重要です。
人口減少がますます加速するなか、都市間競争はますます激しくなっていくでしょう。
様々な問題を抱えていますが、宇都宮市としてはメリットがある以上、多額の公金を投入してでも、駅前の再開発を積極的に支援していくでしょう。
ただし、以前お伝えした、新潟市の三越跡地の再開発が頓挫している件のようなに、地方都市の再開発には、大きな供給制約の壁がすで訪れていることから、今後の情勢には注視が必要です。
過去ログ→【宇都宮市のLRT延伸は中心市街地を救えるのか!?】物理的に再開発が困難になり、多くの課題が山積か!?
みなさまのお役に立つ情報になっていれば、幸いです🙌
★荻原功太朗の業務について★
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。