人の「死」に関するガイドラインが策定され、売買や賃貸物件がいわゆる事故物件となった場合の『告知』に関してある程度の基準が示されました。
ガイドラインでは、私たち不動産業者は売主や貸主(所有者)にたいして
「告知を正確におこなわなければ民事上の責任を問われる可能性がある」ことを説明し、正確に物件状況報告書等を記載してもらえば、調査は適正であるとされました。
売買・賃貸によらず、「自然死や日常生活において当然に予想される不慮の事故」についての「死」は基本的に告知が不要とされました。
それ以外の自殺などに関して賃貸住宅においては(売買は除く)3年経過後を目安として告知が不要とされるなど、事案発生からの経過期間についても判断基準が示されました。
ウッドショックによる資材価格の高騰により新築住宅は値を上げていますが、連動するように中古住宅市場も値を上げています。
これを投資の機会と捉え、個人においても運用のしやすいワンルームや分譲マンションを購入して賃貸運用する方が増加しています。
当たり前の話ではありますが、賃貸運用の不動産投資は入居者がいて初めて収支計画が成り立ちます。
投資に失敗する多くは収支計画の甘さが原因とされますが、不可抗力による事故物件の発生は通常、予測し難いとしていわれています。
ただし現実となれば、入居者が見つからない状態が長期間続く可能性が高く、入居者を見つけるために先ほど説明した家賃の値下げなど何らかのプレミアをつけて募集する必要がでます。
この時点で当初計画した収支計画には狂いが生じている訳ですね。
資金が潤沢な方は現金で投資用不動産を購入されますが、そうではない方は「投資用のマンションを3件持っている」いるなどと言っても、多くが不動産担保ローンなどを利用しています。
ローンであるから、収支と関係なく月々の返済が必要です。
私たち不動産業者は弁護士ではありませんので、保証人への損害賠償請求事件を扱うことはできませんが、類似する判例を提示して、裁判ではどれくらいの請求が認められているかをアドバイスする程度までならできます(もちろん提訴する場合には、提携士業をご紹介しますが)
今回はあくまで目安として参考にできる判例と、それらから導き出した目安を解説します。
【賃借人が殺害され室内に血が飛び散った状態の賃貸マンションにおける判例】
賃貸人が原状回復費用と家賃減額による遺失利益を請求しましたが、裁判所は「殺人による被害者に善管注意義務の違反は認められない」として、室内の汚損も故意・過失がないと判決しました。
この判決では特殊清掃費用や原状回復費用のほか、遺失利益も認められず、それらの実質的な負担はすべて賃貸人とされました。
殺人事件の被害者に故意・過失が存在しないことは理解できますが、被害者の方には気の毒ではあるものの、実質的な被害を負担する賃貸人はやるせないでしょう。
【賃貸マンションの室内で賃借人が知人を刺殺、その後、自らが飛び降り自殺した判例】
前項と同じく殺人に関しての裁判ですが、今回は被害者ではなく加害者のケースです。
この場合は賃借人に善管注意義務違反があるとされ、遺失利益を賃料減額分約179万円と算定して、連帯保証人にたいし損害賠償の支払いを命じています。
【借り上げ社宅で社員が自殺したことによる判例】
東京地判平成13年11月29日の判決ですが、借り上げ社宅であった賃貸用アパートにおける社員の自殺により、事案発生後10年程度は賃料の減額を実施しなければならないと賃貸人が主張し、その計算に基づく損害賠償を請求しましたが、裁判所は事案経過後2年程度で心理的瑕疵は希釈するとして、2年間分の賃料差額(約44万円)の支払いのみを認めました。
【ワンルームマンションにおける自殺による判例】
東京地裁の平成19年8月10日では、単身ワンルーム物件内における自殺は、世間の耳目をあつめた特段の事由もなく、またワンルームマンションという居住形態は相隣関係も相当程度に希薄であるとして事案発生から1年間は賃料全額、及び以降2年分については賃料の半額が相当であるとして計約132万円を、自殺した者の相続人及び連帯保証人にたいして支払いを命じています。
【学生メインのマンションにおいて、募集ピークを考慮した判例】
東京地裁で平成23年1月27日に判決された単身用、とくに学生をメインの入居者としている賃貸マンションの自殺事案では、賃料減少額の計算をおこなうにあたって入居期間の目安である2年間を一区切りとして算出し、さらに学生が部屋を探すピークが3月であるとして5か月間を足した2年9カ月を減額賃料計算の根拠としました。
以上のように5例ほど判例をご紹介しましたが、皆さんはどう受け取られるでしょうか?
お亡くなりになった方や事件に会われた方は気の毒です。
ですが、それにより金銭的な被害を受ける物件所有者にたいしての損失補填としては、個人的にではありますが非常に少ないといった感じを受けます。
とくに家賃収入によりローン支払いを計画していた方であれば、その多くは赤字になること予想され、実際にこのようなことが原因で返済ができず任意売却相談を受けることがあります。
裁判判例は多数、存在しますがそれらを精査していくと下記のような傾向が見て取れます。
1.死因が自然死である場合、家賃減額等の遺失利益や原状回復費用の支払いが認められる可能性は著しく低い。
※遺体の状況等により原状回復費用の一部が認められる可能性はある
2.自殺や他殺における原状回復費用において、容認されるのは事案発生により損傷などの影響を受けた特定の場所に限定される可能性が高い。
※お祓いや供養の費用は請求として認められる可能性が高い。
3.自殺や他殺を原因とする事案発生後からの家賃減額請求において、遺失利益として3年間が妥当である(確認できた判例での最長期間でも4年間)
※3年の期間内においても建物形態や主とされる入居者属性により、減額率は考慮される可能性が高い。
※請求できる遺失利益は、事案発生後から1~2年にたいしては従前家賃の1/2が目安となり、それ以降は1/4程度とされる可能性が高い。
4.嫌悪感の度合いとして判例では「通常人の」もしくは「社会通念上」との文言が散見されることから、世間の耳目の程度、つまり大々的にニュースで報道されたかどうかにより家賃減額の判断基準が分かれると推察される。
5.原状回復費用については当該行為後の室内状況と死因の因果関係が認められるかにより判断が分かれる。
※首つり・リストカット・睡眠薬の服用などの自殺方法と室内状況が個別に判断され、社会通念上、著しい損傷等がないかぎり否決される可能性が高い。
6.自然死や自殺などの死亡原因によらず、室内にのこる「異臭」については認められる可能性が高い。
※原因の除去に関してはクロス交換やカーペット交換・特殊清掃費用などに留まり、従前居住者の生活感を消すためが理由であるクロス交換等の費用が認められる可能性は著しく低い。
いかがでしょうか?
上記はあくまでも目安ではありますが、裁判に提訴しても所有者が思うほどに原状回復費用や多額の逸失利益は認められないのが多くの判例です。
弊社では顧問弁護士もおりますので、同様のケースで提訴したいというご相談があれば専門士業をご紹介することも可能ですが、裁判をおこなえば弁護士費用などの費用が増加することになります。
裁判により損害賠償額などが増加する可能性は否定できませんが、それに要する時間や経費のことを考えれば、折衷案を模索して早期に解決し、新たな入居者を募集して収支を健全化するために尽力する方が得策ではないでしょうか?
★荻原功太朗の業務について★
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