不動産は個人の財産として、その所有権を国が保証して使用・収益・売買・交換の自由を認めています。
そのような大切な財産として、不動産業者が売買の仲介をする場合には、査定の段階から地積測量図や登記識別情報・用途地域や路線価などを調査して、面積や境界、現状の状態など、将来的にもトラブルが発生しないように入念に調査します。
これらの調査内容は、不動産売買契約時においては重要事項説明書に記載され、説明されます。
ですが契約時の重要書類の一つである地積測量図は、存在していないことは度々あり、境界(杭・鋲)の目印が発見できない場合には、隣地との境を証明することができず苦慮することがあります。
そのようなケースでは、「登記簿に記載された大きさ=実際の大きさ」ではない可能性が疑われます。
ちなみに地積測量図とは法務局に備えられている図面の一つですが、1筆(不動産は、その単位を「筆」といいます)の土地における、測量図面です。
不動産をお持ちのかたであれば、一度はご覧になったことがあるかと思います。
このような地積測量図が存在しない土地の場合、新たに測量して登記簿に正しい面積を記載する「地籍更正登記」をするのがよいのですが、それなりの費用がかかります。
そこで、そのような費用をかけたくないかたに向けて、売買契約には「公簿取引」と「実測取引」という2種類の取引方法が存在します。
前者は登記識別情報に記載されている大きさが正確であろうという推定のもと売買をする方式で、実測取引とは、売買前に確定測量図を新たに作成して、間違いのない大きさで契約する方式です。
どちらが良いかといえば、実測取引のほうが安心できます。
ですが公簿取引で取引をした後、買主が実測して面積が増減した場合には清算する特約を付けることが認められていることから、契約の主流は公簿取引による取引です。
大切な財産である不動産に、なぜ正確な面積を測量した地積測量図が備えられていないかというと、先ほど解説したように地籍更正登記に必要な費用がそれなりであるという点もありますが、地籍更正も測量も義務ではないからです。
ですから地積測量図が存在しなくても、直近で売買する予定でもなければ当面、困ることもありません(売買する場合にも、公簿取引にすれば測量しなくても大丈夫ですが……)
冒頭でも申し上げたように、不動産は大切な財産ですから、不動産業者としては機会を見て測量し、地籍更正登記を完了しておくことをお勧めします。
地積測量図が存在しない場合、もしくは測量技術が未発達の時代に作成された図面の場合には隣地との境界問題で揉める可能性が格段に高くなります。
それが顕著になるのが、相続が発生したときです。
相続税は、相続の発生から10カ月以内に現金で支払いをしなければなりませんが、延納しても支払いができない場合には、一定の条件を満たすことによる「物納」が認められています。
物納とは、不足している現金の代わりに不動産で税金を納めることですが、そもそも地積測量図が存在していない土地は物納することができません。
なぜかといえば、地積測量図が存在していない場合には、隣地境界が曖昧な状態であるから将来的にも相隣関係でトラブルになる可能性が高いことから、国としてもそのような土地は受け付けないという意味合いからです。
地積測量図には、下記のような内容が記載されています。
(1)地番と土地の所在
(2)地番
(3)基準点の凡例
(4)面積の計算法
(5)面積の結果
(6)測量した年月日
地籍測量図の歴史は古く、明治時代初期の地租改正から始まります。
その後昭和35年や昭和52年、平成5年と幾度かの法改正などで測量の技術や方法、図面の記載方法が変わり、さらに平成17年の法改正(平成18年1月より施行)以降で現在の形式になっています。
このように古くから存在する図面ですから、近年のものならいざ知らず、古い時代の地積測量図の場合には、測量技術の未熟さにより、大きさが合わないことが度々あります。
寸法が合わなければトラブルになりますので、そのような場合には土地家屋調査士に依頼して新たに測量し、隣接する土地所有者に境界を確認してもらい、正しく登記する必要があります。
このような登記を、地籍更正登記といいます。
地籍更正登記は、土地家屋調査士が以下のような手順で業務をおこないます。
1. 法務局等資料調査
2. 現地調査
3. 事前仮測量
4. 立合依頼(官を含め、全ての隣接所有者)
5. 立合
6. 測量
7. 図面作成
8. 隣地所有者からの承認印受領(確定測量図)
9. 登記申請
例えば上記の図の場合ですと、官1・民4で合計5名の立ち合いですめば楽なのですが、そのように都合よくはいきません。
1筆の土地が複数で共有されていることなど普通にありますから、場合によっては10人以上への立ち合い依頼をすることになります。
立ち合い依頼日に全ての所有者が集まってくれれば良いのですが、人それぞれ事情もありますし、居所が遠隔地である場合などは日程調整だけでも大変です。
さらに下記のようなケースでは難易度が上がり、その処理に要する手間や時間、労力により費用も跳ね上がります。
●地域区分(とくに都市部・農村部など)
●隣接地に赤道(里道尾)水路(青道)などの官地が存在している場合
●隣接道路が私道で、共有者が複数いる場合
●隣接地共有者の人数
●境界鋲の有無
●隣接地所有者が協力してくれない
●隣接地所有者が居所不明の場合
●面積広大地
●公共基準点からの距離
これらのなかでトップクラスで難航するのが、居所不明の場合です。
地籍更正登記をおこなうには隣地所有者の承諾が必須ですから、不明所有者の居所を探さなければなりません。
まさに探偵のような作業が必要になる訳です。
それでも探しきれなければ、どうするのか?
最後の手段として、法務局の登記官が筆界を定める「筆界確定制度」という方法が存在しています。
個人の財産である土地の境界を、官が代理で定める制度ですから申請の煩雑さも含め、申請してから平均して1年程度も必要ですし、それに伴う費用も過大であることから、土地家屋調査士も最後の手段としています。
このような理由から、隣地所有者が所在不明の場合には地籍更正登記をしない不動産が数多く存在し、「空き家問題」の解消や「相続登記義務化」における問題の一つであるとされています。
登記法が令和3年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)として改正され、同時に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)も改正していますが、この法律はどちらも所有者不明土地の「発生予防」と「利用の円滑化」を目的としています。
まず相続登記の義務化で、所有者不明等の「発生を予防」、そして同じ観点から法務大臣の承認を受けて土地の所有権を国庫に帰属させる制度を創設しました。
次に必要とされるのが、「利用の円滑化」です。そのために所有者不明土地の管理に特化した所有者不明土地管理制度を創設するとしています。
これには財産管理制度のほかにも、共有者が不明の場合における共有関係の見直し、そして相隣関係規定の見直しが含まれます。
前置きが長くなりましたが、ここから法務省で検討されている、改正のポイントについて解説します。
単純に「筆界確定制度」の見直しです。
様々な面でハードルが高く、制度自体は知っていても実際に利用しようとは思わないのが現行制度です。
「境界確定」とは、土地の境界が明らかではない場合において、制度の定めにより法務局または地方法務局の長が指定する登記官が境界を確定する行為を意味しています。
これだけだと従来の「筆界確定制度」と変わらない印象を受けますが、内容は大幅に変更されています。
さらに調査の結果、関係土地所有者間に所有権に関しての紛争が存在していることが明らかになった場合には、当該紛争に関して調停をすることも認められています。
委員会による意見の提出により境界確定登記官は遅滞なく境界確定を実施できることから、従来と比較して速やかな解決が期待されます。
確定した境界に基づき、座標値や理由を付した境界確定書(仮称)図面が作製され、その旨が境界確定登記官により公告されます。
これら手続きにより境界確定されると、登記簿及び地図上にも公示されます。
これは行政処分行為ですから、後から所在不明であった利害関係者が異議を唱えても、制度創設以降は民事訴訟による提訴はおこなえず、また行政不服審査法による不服申し立てもできません。
唯一の方法として行政事件訴訟法の定めによる、取消訴訟等の抗告訴訟をすることができるとしていますが、覆すことは難しいでしょう。
この制度の創設により、隣地所有者が居所不明のために地籍更正登記を諦めていた方には、相応の手間が必要ではあるものの、従来よりも簡易に手続きをおこなうことが期待できます。
★荻原功太朗の業務について★
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