事故物件という言葉はネットニュースでもたまに見かけますから、言葉自体はご存じの方も多いかと思います。
不動産における事故とは、建物の不具合や施工不良、建築中の人身事故などを指す意味合いではなく「人が亡くなった」物件を指します。
不動産取引に長く関わっていると、少なからずこの「事故物件」を取り扱います。
その際に、私たち不動産業者が一番に頭を悩ませるのが「伝えた方が良いか」と「どう伝えるか」でした。
買主様や賃借人様の側から見れば、「人が亡くなっている家(部屋)を購入(賃貸)するのは嫌だなぁ」と思われるでしょうし、法的にはこのような心理状態を、「心理的瑕疵」と呼び、「建物購入(賃貸)の意思決定に及ぼす重要な事項」として、宅地建物取引業者による説明を義務としています。
ところが説明を義務とはしていても、説明の範囲や伝達する内容、また事案発生から何年たてば告知をしなくてもよいかなどが何も決められておらず、すべて業者の判断によるとされていました。
ですから事件性のない平穏な臨終を自宅でむかえても、人によっては「それ自体が嫌だ!!」という方もおられる訳ですから、説明しなければならない。
それも近年のことならまだ分かりますが、5年、10年と経過しているから説明しなくてもいいだろうと思っていたら「そんな話は聞いていない。知っていたら契約していなかった!!」と詰め寄られてしまう。
場合によっては訴訟にまで発展してしまいます。
そうなると事故物件には、手を出したがらなくなります。
それもこれも、判断の全てが不動産業者に委ねられていたから。
さすがにそのような状態を放置していれば、事故が発生して販売もできずに増加する空き家問題も増加しますし、高齢の方に部屋を貸す賃貸オーナーもいなくなってしまいます。
そこで、今回のブログで解説する「人の死の告知に関するガイドライン」が、令和3年10月8日に国土交通省により制定されました。
ガイドライン制定前には、国土交通省が「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を組織して、令和2年2月以降7回に渡り議論を重ねてきました。
最終的には本年5~6月に実施されたパブリックコメントを踏まえて制定されています。
それでは具体的に何が決まったか?
「事故物件の調査義務は、宅地建物取引業者にない」と、明確に定められたこと。
まず、これが一番の功績です。
皆さんご存じないかと思いますが、もともと法律では不動産業者にたいして事故物件の調査義務は定められていません。
ところがそれを明確に定める指針が存在していないことから、契約後に事故物件であることが発覚したら、先ほど解説したように
「そんな話は聞いていない。知っていたら契約していなかった。訴えてやる!!」となります。
そこで法律では調査が義務とされていないけれど、疑わしい場合にはインターネットで検索したり、近隣で聞いて回ったりなど調査する必要がありました。
ですが、インターネットや近所への聞き込みでも、その情報の信憑性と言えばどんなものでしょうか……
実際に調査しても、面白おかしく事実が改竄されていたり、記憶が曖昧で事実と異なっているものが大半です。
そのような確度の低い噂話のようなものでも、購入者(賃借人)が近所で聞き及べば契約後でも問題になりますから、調べて告知しなければならない。
不動産に関する調査は宅地建物取引業者の重要な仕事ですが、信憑性のない噂話のようなものまで調査するとなると、さすがに負担が過大です。
だから、手を出したくないという悪循環に陥ります。
前置きが長くなりましたが、ガイドラインで決定された事項を解説しましょう。
① ガイドラインは、取引の対象となる不動産において生じた「人の死に関する事案」を取り扱う。
② 適用は居住用不動産に限定する(オフィスや店舗等は含まれない)
③ 人に死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、死亡原因や経過期間を問わずこれを告げなければならない。
この3つを前提として、告げなくてよいケースが明確になりました。
自然死・日常生活の中における不慮の死は告知義務がないとされました。
また賃貸取引限定ではありますが、事案発生から概ね3年で告知義務が不要とされました。
さきほど不動産業者には事故物件にたいしての調査義務がないと説明しましたが、それでは私たち不動産業者がどのようにして事実関係を知るのかいうと、売主や賃貸オーナーの「告知書」によるものとされました。
この場合の告知書とは、今後は様々な書式が出てくる可能性もありますが、ガイドラインでは「物件状況報告書」で告知すれば良いとされています。
物件状況報告書とは、取引物件の状況を売主(賃貸オーナー)が不具合や劣化状況について報告するための書類です。
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