登記法が改正され、従来の登記済権利証が登記識別情報に変更されたのは平成17年のことです。
改正から16年もたちますから、世間ではすっかりと定着しています。
初めて不動産を購入される若い方は、和紙に筆書きで記載され、朱色の登記済み印が押された威厳のある登記済権利証を見たことがない方も多いでしょう。
一般の方ばかりではありません。
不動産業界に入りたての営業マンなどは登記済権利証に馴染みがなく、両者の違いを上手く説明できないようです。
登記済権利証と登記識別情報、どちらも不動産の所有権を証明する書類という意味において同様です。
前者は書面自体が重要であるのにたいし、後者、つまり登記識別情報は発行された書類自体には意味がなく、目隠しされた下記のような12桁のパスワードが重要であるという点が大きな違いです。
このような違いがあっても、どちらも重要な書類であるとこに違いがありません。
まず、どちらも紛失をした場合に再発行はできません。
私たち不動産業者は、査定依頼を受けた場合に依頼者が所有者本人であることを確認する意味合いから、登記済権利証もしくは登記識別情報通知を確認させて戴きます。
重要書類ではあっても保管方法に個人差がありますから、年代の古い登記済権利証の場合などでは、存在はしているものの汚損や風化により内容を確認できない場合もあります。
また管理状態が良くても、昭和初期に所有権移転をしてからそのまま所有している土地などの場合の登記済権利証は、クセのある「毛書」で記載されている場合も多く、ほとんど古文書です。
ですから内容を解読するにも、一苦労です。
写真_貝塚司法所事務所HP_コレクション写真より
それもそのはずで、不動産登記法が制定されたのは明治20年のことです。
私はお目にかかったことはないですが、その時代の登記済権利証も立派に存在しているのかも知れません。
登記法は、現在までにおいて何度も改正されていますが、明治制定以降、ある程度は解読しやすい書式体裁が整ったのは昭和6年3月30日法律第20号改正だったと記憶しています(間違っていたら、申し訳ありません)
いずれにしても、このように古い時代から存在している登記済権利証ですから、先ほど説明したような汚損や風化により内容を確認できないケースや、紛失も珍しいことではありません。
ですが登記済権利証も登記識別情報通知も再発行ができませんから、紛失すると焦ることになります。
ですが紛失しても売買などの取引に支障はありません(もちろん、紛失しても良いという訳ではありません……)
重要書類ですから紛失や盗難、破損などの防止は可能な限り回避するようにしたいものですが、紛失したからといって不動産の所有権が失われるわけではないからです。
さすがに最近のドラマで見かけることはありませんが、金庫をこじ開けて中に入っていた登記済権利証を手に取り、「フフフ……」と悪い顔で微笑むなんてシーンがありますが、登記済権利証だけで不動産を悪用できるほど、日本における登記法は甘くありません。
平成17年3月7日施工の不動産登記法が改正以前は、登記済証紛失時には保証制度で対応してきましたが、この保証制度は改正により廃止されました。
現在では事前通知制度の強化と、資格者代理人による本人確認情報の提供制度へと変わっています。
まず事前通知制度とは、登記識別情報が提供されない(つまり、登記済証が提出できない状態)で登記申請がなされた場合、登記官から申請人である登記名義人に対して「登記申請があった旨」および「その登記申請の内容が真実であれば、一定期間内にその旨の申出をすること」を通知します。
簡単にいえば法務局から意思表示確認の書面が届くのですが、原則としては発送から2週間以内に、事前通知書の申出書回答欄に名前を記載して、登記申請書や委任状に使用した印鑑により捺印し返送します。
実際にはこの制度、登記申請から返送までの時間が必要ですので一般的な不動産取引では利用に適しません。
そこで、もう一つの方法である資格者代理人による本人確認情報の提供制度が主流となっています。
これは、登記済証を法務局に提供することができない場合に,司法書士等の資格者代理人が適切な本人確認情報を提供し,登記官が提供された情報の内容を適正と認めたとき,事前通知の手続を省略することができるとしている制度です。
不動産の登記は、登記手続きの専門家である司法書士がおこないます(ちなみに、弁護士も登記申請業務をおこなえます。法律に関するほとんどの業務を扱うのが弁護士ですから)
登記法改正により保証制度が改正され、私たち不動産業者は楽になったのですが、代わりに厳格な本人確認が求められるようになった司法書士等の負担は増加しました。
ですから、当然のごとく登記済証(登記識別情報を含む)を紛失した場合の登記費用は、業務が増加すると同時に責任も増しますから、費用が増加します。
登記費用が増加して喜ぶ方はいないでしょうから、くれぐれも重要書類は大切に取り扱うことをお勧めします。
先ほどのドラマの話ではないですが、登記済権利証や登記識別情報が盗難にあうケースもあるでしょう。
重要書類が悪用され、「勝手に所有権移転されたり抵当権設定されたりしたら……」と不安になるでしょう。
実は、この場合にも心配する必要はありません。
登記法改正前は、登記済権利証を悪用して勝手に所有者を移転してしまうなんて巧妙な手口も少ないながら存在していたようですが、それでも登記済権利証・印鑑証明・本人確認、さらには登記官が怪しいと考えた場合には本人出頭まで命じますから、法律に精通した悪のプロが、巧妙に立ち回らなければ難しい手口でした。
新法では出頭主義が廃止されましたが、それを補うに余るほど、資格者代理人による本人確認が厳格に定められています。
資格者代理人(弁護士・司法書士)が懲役覚悟で犯罪行為に加担しない限り心配する必要はありません(ちなみに、これら資格者代理人が本人確認を怠ったことにより不利益を受けた場合には、損害賠償請求ができます)
「それでも心配だ……」という方のために、登記識別情報制度には効力を失効させる制度もあります。
具体的には、不動産の管轄法務局にたいして不動産名義人もしくは相続人等の利害関係者に限り申請することができる制度です。
その他にも、「不正登記防止の申し出」という3か月間限りにおいて、不正登記を防止する制度もありますので、心配がある場合には司法書士などに相談するのが良いでしょう。
私は不動産コンサルとして売買実務はもちろんのこと、不動産に関するお困りごとにたいして、豊富な経験と知識で柔軟に対応しています。
どうぞお気軽にご相談ください。
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