「借地権」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
他人が所有する土地を借りる権利のことで、所有権などと同じく登記することもできます。
借地は、借りた土地の上に建物を建築して居住の用に供す「定期借地権」や、耕作や牧畜などに利用する「永小作権」などが良く知られています。
土地所有者としては、所有権を手放さず「地代」として予め定められた報酬と受け取ることができますし、借地人は自己の目的に応じその土地を利用することができるのが特徴です。
賃貸マンションやアパートなど、あくまでも居住用として建物を貸すまたは借りる普通借家権は1年~2年を目安に契約更新を繰り返しますが、貸借の目的部が土地である借地権は、長期に亘る期間で契約されます。
たとえば「一般定期借地権」であれば存続期間は50年以上。
事業用定期借地権で30年以上50年未満です。
定期借地権の場合には、どちらも期間満了後は原則として契約更新ができません。
長期間の契約ではありますが、その間は「地代」も入りますし、契約期間の満了後は確実に土地が戻ります。
期間満了後は原則として更地にして所有者に返還する義務を負います。
ただし建物譲渡特約を予め締結していた場合には、借地人(建物所有権者)は設定期間経過後に時価相当額による対価で、土地所有者に譲渡すると定めておくことも可能です。
この場合に土地を借りていた人は、解体費用の負担もありませんし、時価相当額ではありますが建物代金を受け取れます。
これまで解説したように、一般定期借地権は50年間以上もの存続期間による契約ですから、その間に建物が建て替えられる場合もあります。
そのような場合に、まだ使用できる程度の建物を解体するのは勿体ない話です。
そのように借地権上の建物であっても、一度建築すれば50年以上我慢して住み続けるのではなく、残存期間によっては建て替え、快適に暮らせるための特約です。
それ以外にも様々に法的な定めのある借地権ですが、このような借地権もしくは借地権付きの住宅を相続した場合、相続人は売却することはできるのでしょうか?
また売却できるとして、一般的な土地建物と比較してどれくらいで販売できるのでしょうか?
今回はそのような疑問について解説したいと思います。
まず借地権は、当然に相続の対象となりますし資産として売却することができます。
とはいえ借地権はあくまでも土地を使用することの出来る権利を売買するわけですから、土地そのもの、つまり所有権の売買金額にはなりません。
また借地上に建築された建物は、土地とは別個の不動産ではあるものの、簡単に切り離して移動できる訳ではありませんから「借地権付住宅」としての査定金額が算出されます。
また、これ以外にも借地ならではのルールや商習慣も存在しますので注意が必要です。
そのようにあまり馴染みのない借地権付き物件を相続しても、いったい何から手を付けて良いのかわからないでしょう。
実は借地権付き売買の取り扱い件数自体がそれほど多くもないので、実績のある業者を探すことが大切です。
そこで、もう少々、借地権についての解説を補足しておきます。
冒頭で少し触れましたが、借地権は
●普通借地権
●定期借地権
の2種類しかありません。
余談ですが、農業地帯などではまれに親族の土地を無償で借り受け建物を建築しているケースがあります。
その場合には土地は使用貸借となりますので一般的な借地権とは異なります。
使用貸借は法的に土地使用者が保護されることはなく、土地所有者に求められた場合には直ちに土地を返還しなければなりません。
建物については法定地上権が成立していますが、返還請求されたときには建物の扱いで揉めることが多く、よほど親しい親族以外では見かけられない方式です。
また借地権には普通・定期の2種類あるとご説明しましたが、現在において締結される借地権はほとんどが定期借地権です。
理由は普通借地の場合、借主の権利が強く保護されていることから、極論を言えば「一度貸したら、二度と戻ってこない」可能性が高いからです。
普通借地契約で土地所有者が借地契約を解除(更新拒絶といいます)するには、正当事由、つまり所有者が土地を返還してもらいそこに住宅を建築しなければならないなどの客観的合理的理由と社会通念上容認される正当事由が必要とされます。
ただ「使うアテができたので返してください」では通用しません。
もっとも、借地人が納得できるだけの立ち退き料を支払えば、拒絶理由は不要とされますが、なんせ土地のことですから高額になることが予想されます。
またその場合でも土地に建物が存在している場合には、立ち退き料と併せて時価による金額で建物も買い取らなければなりません。
つまり返還も難しく、応じてもらえたとしても費用が高額になるのです。
それにくらべて定期借地権は、土地所有者の権利も保護されます。
同様に土地所有者の権利も守られており、契約期間が満了すると確実に借地契約が終了するのが借地権です。
定期借地権には「一般定期借地権」とのほか返還時に建物買取請求権を付した「建物譲渡特約付借地権」そして「事業用定期借地権」の3種類があると解説しましたが、建物用途や契約年数等に違いがあるだけで、原則として更新ができない点については共通しています。
もともと定期借地権には更新という概念はありません。
但し双方が合意すれば再契約をすることは可能です。
但し更新ではなく、一から地代なども取り決めての契約ですから、従来とはまったく違った条件での契約になる可能性もありますし、土地所有者に応じる義務もありません。
もともと定期借地権は、契約満了時に借地契約を終了する際、貸主に正当事由や立ち退き料を支払う必要もなく、建物買取請求権についても強制ではなく、あくまでも合意がある場合のみです。
また定期借地権は確実に借地契約が終了するという契約方式ですから、借地権設定時に借主が土地所有者に対して権利金の支払うことは一般的ではなく、ほとんどの場合に保証金を支払います。
権利金は支払っても返還されませんが、保証金は契約が終了して土地を返還すれば戻ってきます。
また借地権を相続した場合には、継続して契約で定められている「地代」の支払う責任も相続することになりますが、一般的には相当地代で定められていることが多く、年間の地代として更地価格の6%前後が目安とされています。
続いて借地権付き土地の評価ですが、国税庁が定める路線価図にも借地権割合が記載されています。
路線価図とは相続、遺贈又は贈与により取得した財産に係る相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用される道路に面した土地の㎡あたりの金額が記載された図面であり、国税庁が管轄し公開しています。
路線価図、つまり相続税などの計算根拠としての借地権は30~90%の幅を持って定められていますが、それはあくまでも税金の計算根拠となる数字ですから、売買をする場合の実勢価格とはことなります。
実勢相場においては借地権の多いエリアで70%前後、それ以外での地域で40~60%が目安であるとされています。
また定期借地権は期間の定められた契約ですから、相続時には残存期間の分だけ評価が目減りします。
この残存期間には一定のルールは存在していませんが、実際の取引上での目安は、国税庁による財産評価基本通達を参考に行われています。
基本的としては残存期間×1%(20年を超える場合には15~20%が目安)で、簡単に言うと
5年の残存期間_更地の5%
10年の残存期間_更地の10%
といった感じです。
(例)比較的に借地の多い1000万円が相場の土地で残存期間が15年の土地を売買する場合
1000(万円)×70%×15%=105万円
実際には建物分の計算も必要ですから、このような単純計算で算出できるものではないのですが、ひとまずの目安として例示すれば上記のような計算となります。
また特に注意いただきたいのが
借地権を譲渡する場合には、地主の承諾を得ることです。
承諾を得ずに売買したり、事後承諾で良いだろうと第三者への譲渡契約(売買契約も同様)を進めてはいけません。
そのような場合には、普通・定期のどちらにおいても土地所有者は更新拒絶の正当事由を具備することになり、借地契約を解除することができます。
法律論になりますが、売買契約においては売り主が必ずしも所有者である必要はありません。
売り主は、締結した契約内容に基づき物件を引き渡す義務を負うだけのことであり、極論でいえば他人の土地でも自由に売買契約できるというのが民法の考え方です。
ただし所有者でもない人間が物件を引き渡すことなどできませんから、結果的に違約や詐欺になってしまいますが………
ただし相続をすること自体は、地主の承諾は不要です(借地権を相続した旨の連絡は、地代の支払いや今後の関係からも必要です)
また相続した場合において、自分が使用しないので売却する場合には先程、解説したように譲渡許可が必要であること、また契約内容によっては「承諾料の支払い」が必要になることも覚えておきましょう。
借地契約において承諾料が発生する場合の目安は借地権価格×10%ですが、これも借地契約書に記載されている約款を確認して取り決められた金額を確認しておく必要があるでしょう。
また第三者に借地権を売却する場合には、保証金の扱いをどうするかについても確認を怠らないよう注意してください。
このように通常の所有権による土地売買と比べ、煩雑な確認が必要な借地権。
不動産業者によっては一度も取り扱った経験がないこともあるのが「借地権」です。
このような借地権を相続してお困りの場合には
取り扱い経験と実績のある不動産業者を探して相談するのが、一番の近道かも知れません。
★荻原功太朗の業務について★
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