「東日本・自然災害被災者債務ガイドライン運営機関」の適用範囲が、「コロナ禍における住宅ローン支払い困窮者」にまで範囲を広げたとの政府広報を見たお客様から、不動産コンサル業務としてご相談がありました。
制度をご存じのない方に向け解説しておきますと、自然災害などに被災して資金的に困窮した事業者や個人を対象に、平成27年から開始されているものです。
具体的には、本件制度を利用して「破産」や「任意整理」以外で救済を試みる動きであり、政府として困窮者支援をおこなう素晴らしい取り組みとして、被災された方に対しての実績においても一定の成果をあげています。
この制度は2021年4月から「コロナ禍における住宅ローン支払い困窮者」にまで、その対象を広げました。
ですが、利用者は伸び悩んでいます。
そこで政府が「政府インターネットテレビ」を通じ2021年7月22日から動画配信を始め、それを見た相談者から「実際に使えるものなのか詳細を教えてほしい」と、コンサル依頼があったわけです。
ガイドラインを見ればおわかりになりますが、実際に制度が適用出来るのであれば素晴らしい内容です。
登録支援専門家の協力を得ることにより
●手続き支援無料
●財産を一部、残せる(可能性がある)
●制度利用により、延滞履歴などの個人信用情報が登録されない
など、返済困窮している方にとってはまさに「夢」のような美辞麗句が並んでいます。
リーフレットだけを見れば、誰しもが飛びつきたくなる内容です。
いつもご紹介している「任売」よりもはるかに素晴らしい。
ところが、表があれば裏もあるのが世間の常です。
実際には、よほど深い階層まで調べなければ見つけることが困難な「制度実績」ですが
コロナ案件の委託件数1085件にたいして、令和3年6月時点の成立件数は3件
なんと0.0028%の実績です。
手続き中案件が785件(72%)累積していますので、今後の増加も多少は期待できるかとは思いますが、個人的にはそれも難しいのではないかと思っています。
その理由を説明するために、要件と制度利用の流れを見てみましょう。
①まず金融機関にたいして「ガイドラインによる制度利用」の申し出をおこないます。
これにたいして、原則として金融機関が拒むことはありません(むろん、住宅債権以外に無担保ローンや債務額が極端に多いなど特殊なケースは除かれます)
②金融機関に承諾を得たあと、地元弁護士会などを通じて「登録支援専門家」による支援を依頼します。
ちなみにではありますが、登録支援専門家は地元の弁護士会・会計士会・税理士会
に登録している弁護士・公認会計士・税理士です。
これら登録支援は基本的に拒まれることはありません。
無償で、これら専門家の支援を受けることができます。
ここまでは素晴らしいのですが
③財産目録の作成までくると雲行きが怪しくなります。
まず、登録支援専門家は財産目録等の作成にあたり、助言はしてくれますが作成はしてくれません。
つまり自分でこれら申請書類を作成しなければなりません。
④の「調停条項案」の作成までいくと、さらに暗雲が立ち込めます。
財産目録作成時と同様に、助言はしてくれますが作成は自分でおこないます。
不動産の処分価(売却価格)や残債の返済計画など、専門知識のない一般の方が書類を作成すること自体ハードルの高いものではありますが、それでも専門家の助言を得て頑張って作成したと仮定しましょう。
⑤で作成した書類を金融機関に提出し、調停に応じるかの可否を問うわけですが、残念ながらほぼ否決されます。
理由を解説しておきます。
金融庁からの通達で、金融機関はたとえポーズでも相談に応じる姿勢は見せなければなりません。
ですから、相談があれば対応してくれます。
処分価(売却価格)の算出や残債の返済計画が甘くても、体裁が整っていれば書類を受け取ってはくれます。
ただし、金融機関は相談には応じる義務はありますが、調停に応じるかどうかの判断は任意とされています。
金融機関は金融庁からの通達を無下にすることができないことから対応はしますが、債券回収が見込めない計画に応じる必要は一切、ないからです。
これは「任売」において、販売価格や残債の返済計画で金融機関と鎬を削る私たち不動産のプロによるコメントです。
金融機関は、当然ではありますが1円でも多く債権を回収したい。
これは、当然の理屈です。
任売で私たちが交渉する場合には、金融機関の意向を尊重しながらも折り合える点を模索しながら慎重に“事”を進めていきます。
不動産のプロですから当然ではありますが、そのようなノウハウを持たぬ一般の方が、登録支援専門家の助言があるとはいえ、作成した書類がすんなりと金融機関で可決される可能性は……
さて、どれくらいあるでしょうか?
よしんば金融庁にたいして耳障りの良い報告をしたいがために、調停まで進んだとしましょう。
これまで助言をしてくれていた「登録支援専門家」は、簡易裁判所で開催される調停には参加しません。
ガイドラインにも「公平性を遵守する」とした目的から、調停立ち合いはしないと明記しています。
海千山千の金融機関に、単独でいどまなければなりません。
自ら弁護士に委任(実費)して立ち合いしてもらうことは可能ですが、そもそも前提として計画内容が双方の実利にそっているかどうかの争いです。
さて、調停が成立する可能性はいかほどのものでしょうか?
結果は、先ほど解説した実績に表れています。
今回、お受けしたコンサルにおいても全体の制度概要を説明し、
「労力を使っても成果が得られる見込みがないのであれば、すみやかに任売を検討してみてはどうか」と助言させていただきました。
むろん制度自体は素晴らしいものであり、使用が可能な内容であれば積極的に利用を検討するべきでしょう。
制度適用が可能かどうかなど、「任売」も含めてのご相談は気軽にお問合せください。
★荻原功太朗の業務について★
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