6月30日、京成百貨店(水戸市)の1階にあった宝飾ブランド「ティファニー」が閉店しました。
水戸京成百貨店は、ルイ・ヴィトンとティファニーという、百貨店の旗艦店である、ラグジュアリーブランド店が相次いで撤退するという苦境に立たされています。
茨城県唯一の直営店だった両店舗の閉店は、地方都市における高級ブランド戦略の大きな転換点を示しています。
そして、この流れは宇都宮にとっても決して他人事ではありません。
むしろ、次のターゲットになる可能性すら感じられる深刻な状況です。
地方から消えゆくラグジュアリーブランドの現実
水戸だけでなく、福島や静岡、千葉など各地で同様の動きが相次いでいるのが現状です。
最も衝撃的だったのは、西武池袋本店という都心の有名店からもエルメスが撤退したことです。
45年以上にわたって営業していた老舗店舗でさえ、改装を機に撤退を決断したのです。
この現象の背景には、ブランド側の明確な戦略転換があります。
ブランド側は限られた経営資源を、より収益性の高い立地に集中させようとしているのです。
大都市でも都心部と国際空港の免税店への出店を強化し、訪日観光客を狙った戦略に軸足を移している一方で、地方の直営店を整理統合する動きが顕著になっています。
頼みの綱はCOACHという必然のながれ
こうした撤退ラッシュの中で、地方百貨店で今も健闘しているのが、アメリカのCOACHです。
→ヴィトンやティファニー、地方百貨店撤退相次ぐ コーチが頼みの綱(日本経済新聞)
同ブランドは「捨てる神あれば拾う神あり」の状況を体現しており、逆張り戦略で残存者利益を獲得しています。
国内約100店舗を展開し、百貨店「あと1店」の14県のうち過半に店を構えています。
しかし、これは言い換えれば「やっと買える価格帯のブランド」が最後の砦になっているという、地方消費の厳しい現実を物語っています。
実際、日本百貨店協会のデータによると、地方百貨店と都市部の経営効率には3倍もの格差があります。
地方の売上効率は都市部の3分の1程度にとどまっており、ビジネスとして成り立たない以上、高級ブランドの撤退は避けられない選択肢になりつつあります。
COACHの価格帯は確かに手が届きやすく、地方の購買力に見合ったレベルなのかもしれません。
しかし、それは同時に地方都市の経済力の限界を示すバロメーターでもあるのです。
ヴィトンやエルメス、ティファニーのような超高級ブランドから、COACHのような手の届きやすいブランドへの客層シフトが起こっています。
これは地方都市の購買力そのものが低下している現象と捉えるべきでしょう。
また、地方に住む富裕層は、自ら都心に出向き、品数が多くラグジュアリーな雰囲気が味わえる店舗で購入するケースも増えています。
宇都宮への影響は時間の問題?
こうした全国的な流れを踏まえると、宇都宮から高級ブランドが撤退してしまうのも時間の問題と考えるのが現実的です。
現在、東武宇都宮百貨店にはいくつかの海外ブランドが入っていますが、全国的な撤退の波が宇都宮だけを避けて通るとは考えにくいです。
宇都宮市の人口は約50万人、商圏人口は100万人を超えると言われ、決して小さくはありませんが、ブランド側から見れば「選ばれる立地」でなくなる可能性が高いと予想されます。
特に注目すべきは、池袋のような首都圏の主要立地でさえブランドの選別(池袋西武からエルメスが撤退)が進んでいることです。
東京23区内でもこの状況であれば、地方都市はより厳しい選択を迫られることになるのは確実です。
栃木県内を見渡しても、宇都宮以外に百貨店と呼べる施設はほとんどありません。
宇都宮からラグジュアリーブランドが撤退すれば、気軽にラグジュアリーな店舗の雰囲気を体験したり、高級品に触れたり、見かけたり、購入したりできなくなります。
これは単なる不便さの問題ではなく、地域の格差や魅力度に直結する重大な問題です。
また、近年のインフレによる資材高騰や人件費上昇も、ブランド側の採算性判断に大きな影響を与えています。
地方店舗の収益性がさらに悪化すれば、撤退の判断はより早まる可能性があります。
中心市街地への深刻な打撃とドミノ倒し効果
もしヴィトンが宇都宮から撤退すれば、その影響は単なる小売業の問題にとどまりません。
中心市街地の魅力度低下は確実で、これまで百貨店を核とした街づくりを進めてきた宇都宮市にとって「とどめの一撃」になりかねません。
なぜなら、高級ブランドの撤退は、いわゆる「ドミノ倒し効果」を引き起こす可能性があるからです。
まず、百貨店全体の集客力が低下し、他のテナントの売上にも影響が波及します。
次に、周辺の商業施設や飲食店の客足も減り、中心市街地全体の活気が失われていきます。
地方都市では「お金を使う場所がない」「楽しいものがない」という声がよく聞かれますが、高級ブランドの撤退はまさにこうした現実を加速させる要因となります。
これは単なる商業の問題ではなく、都市の魅力そのものに関わる深刻な問題といえるでしょう。
→居酒屋多く活気、でも「治安が悪い」 宇都宮商議所が中心市街地の来訪者を調査 目的の6割は買い物や飲食(下野新聞)
また、高級ブランドの存在は、その街のステータスシンボルとしての役割も果たしています。
それが失われることで、宇都宮の都市イメージにもマイナスの影響をもたらします。
不動産市場への深刻な下押し圧力
さらに深刻なのは、不動産市場への長期的な影響です。
中心市街地の商業的魅力が低下すれば、地価にも確実に下押し圧力が働きます。
特に東武宇都宮駅周辺やオリオン通り、大通り沿いの商業地では、その影響が顕著に現れる可能性があります。
また、建築費が高騰している現在の状況下で、この影響はより深刻になります。
新規投資を検討する事業者にとって、中心市街地の将来性に疑問符が付けば、投資判断は当然慎重になります。
これは新たな商業施設の建設や既存ビルの建て替えにも影響を与え、街の更新が停滞する可能性があるのです。
実際、全国の地方都市では中心市街地の地価下落が問題となっており、宇都宮市においても例外ではありません。
街のシンボルであるラグジュアリーブランドの撤退は、大きな負の連鎖を生み、衰退を加速させる大きな要因の一つとなります。
LRT西側延伸計画への逆風要因
宇都宮市が計画しているLRT西側延伸にとっても、ラグジュアリーブランドの撤退は、大きな逆風要因となります。
LRTの成功は、沿線の魅力向上と利用者増加にかかっています。
しかし、中心市街地の求心力が低下すれば、公共交通への投資効果も疑問視される可能性があります。
特に、東武宇都宮百貨店周辺は LRT の重要な結節点の一つです。
この地域の商業的魅力が低下すれば、LRT利用者の減少につながり、延伸計画の正当性自体が問われることになりかねません。
投資対効果の観点から見ても、中心市街地の活性化とLRT計画は密接に関連しています。
現在の建設費高騰を考えると、LRT延伸には想定以上の整備費の増額が必要なのは間違いありません。
その投資に見合うだけの効果を得るためには、沿線の魅力向上が不可欠です。
しかし、高級ブランドの撤退はその流れに逆行する動きであり、LRT開発に水を指します。
百貨店業界全体の構造変化
この問題は宇都宮だけの話ではありません。
全国の百貨店数は1999年のピーク時から133店も減少し、現在は178店となっています。
百貨店のない県が4県、あと1店しかない県も14県あるという状況です。
また、深刻なのが、地方百貨店の多くは築年数50年以上を経過した建物で営業しており、必要な建て替えや修繕に投資ができないケースが目立っていることです。
建設費の上昇などが経営に追い打ちをかける中、乗り越えるべき壁は多いのが現実です。
東武宇都宮百貨店も例外ではなく、建物の老朽化や設備更新の必要性に直面しています。
こうした状況下で高級ブランドの撤退が重なれば、百貨店存続そのものが困難になる可能性もあるのです。
宇都宮に求められる新たな戦略
厳しい話ですが、高級ブランドはもはや東京や大阪といった大都市圏でしか生き残れない時代になりつつあります。
外国人観光客が増えているため、ブランド各社は羽田空港や成田空港の免税店に力を入れています。
売上を効率よく上げられる場所に店を集中させるのは、企業として当然の判断といえるでしょう。
宇都宮市は、この流れを受け入れつつ、高級ブランドに頼らない街の魅力づくりに取り組む必要があります。
ただし百貨店とは違う形で人を集める仕組みを考えるのは容易ではありません。
駐車場の問題も大きいです。
成功している地方都市を見ると、独自の文化や産業を活かした街づくりが共通しています。
宇都宮も餃子、ジャズ、といった独自のコンテンツはありますが、それだけでは集客に限界があり、中心市街地の新たな魅力づくりには課題が山積しています。
起爆剤としてLRTの西側延伸は不可欠な要素ですが、金利上昇とインフレの影響で、計画には大きな不確実性が日に日に増してきています。
最後に:中心市街地の不動産相場への影響
高級ブランドの撤退は、宇都宮市の中心市街地の不動産市場には深刻な影響を与えることになるでしょう。
現在の宇都宮は、JR宇都宮駅周辺に街の機能が集約される一方で、東武宇都宮駅周辺の旧市街地は活気を失いつつあります。
もし東武宇都宮百貨店から高級ブランドが撤退すれば、この流れはさらに加速してしまうでしょう。
百貨店の集客力が落ちれば、大通り沿いや東武宇都宮駅周辺の土地の価値も下がります。
百貨店を頼りにしていた周辺のオフィスビルや商業施設も、テナントを確保するのが難しくなり、家賃相場も下落する可能性が高いでしょう。
さらに建築費が高騰している現在、事業者は新たな投資に慎重になっています。
旧市街地の将来性に不安を感じれば、新しい建物を建てたり古いビルを建て替えたりする動きも鈍くなります。
その結果、街全体の老朽化が進んでしまう恐れがあります。
一方で、JR宇都宮駅周辺の不動産市場は堅調を維持する可能性が高いでしょう。
このため、宇都宮市の都心部エリア内でも不動産のミクロな二極化が進みそうです。
中心市街地は、高級ブランドに頼らない新しい魅力を作り出すことができれば相場の回復も期待できますが、状況を好転させるのは容易ではなく、強力な起爆剤が必要不可欠です。
その意味でも、中心市街地にとって、LRT西側延伸が計画通りに進むかどうかは、相場の流れを決める重要な分岐点となるため、注視が必要でしょう。
今回の内容が皆さまのお役に立てば幸いです🙌
★荻原功太朗の業務について★
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