LRTが開業してから約2年が経過しましたが、沿線エリアでは明らかに新しいライフスタイルが定着し始めています。
それは、今まで宇都宮市で暮らし、仕事をする人なら当たり前だった「マイカー所有」という概念が徐々に変化していることです。
この変化は、不動産の取引現場で日々実感しています。
現場で肌身で感じているこの変化について、今回は詳しくお話ししたいと思います。
駐車場契約が「必須」ではなくなった衝撃
私が管理している物件では、特に印象的なのが、
LRTが開業してから、沿線徒歩5分圏内では明らかにマイカーの所有率が減っているということです。
これは、賃貸マンションの契約の際に起こった変化から明確にわかります。
LRT開業前は、賃貸物件と駐車場はセットでの契約が当たり前でした。
しかし、開業後に新規入居者の希望により契約を分けて対応し始めたところ、駐車場なしの契約が徐々に増え始めました。
現状の数字で言うと、JR宇都宮駅まで徒歩圏内にある東宿郷・元今泉エリアの物件では、新規契約者の3割ほどが駐車場なし契約を希望しています。
正直、最初に入居希望者から「駐車場は不要です」と言われたときは驚きました。
宇都宮市において車なしの生活を選択する人がいるなんて、LRT開業前には想像もできませんでした。
しかし、この傾向は一時的なものではなく、むしろ着実に広がっています。
特に20代から30代の若い世代の方々が、積極的にLRT沿線を選んで住居を決めるケースが目立って増えているのです。
入居者の方々に理由を聞いてみると、「多少家賃が高くても、車を持たない方がトータルでは安い」という声が多く聞かれます。
車両本体の購入費用やローン、保険料、ガソリン代、車検費用、駐車場代などを考えると、マイカー関連の支出は月に数万円になることも珍しくありません。
それに比べれば、LRT沿線の利便性の高い物件に住む方が、経済的にもメリットが大きいということを、若い世代の皆さんはよく理解しています。
契約変更が生んだ思わぬ収益向上効果
この駐車場契約の変化は、オーナーにとっても思わぬメリットをもたらしています!
従来、入居者には、賃貸物件を借りてくれていることもあり、相場よりも安い賃料で駐車場をセットで提供していました。
しかし、駐車場なし契約が増えたことで、空いた駐車場区画を一般の月極駐車場として相場賃料で貸し出すことができるようになったのです。
この賃料差は、オーナーにとって大きな収益向上につながっています。
LRT沿線という立地の良さもあり、一般の月極駐車場としての需要も旺盛で、空きが出てもすぐに埋まるという状況が続いています。
入居者の脱マイカー志向が、結果的にオーナーの収益性向上に貢献するという、まさにWin-Winの関係が生まれてきています。
法人ユーザーにも広がる「脱マイカー」の流れ
私が管理している物件はほとんどが法人ユーザーが対象の物件が多いのですが、特に単身赴任などで移住される方が、LRTを利用して通勤できるなら、マイカーを所有しないという選択が増えています。
その背景には、LRT開業によって、これまで公共交通でのアクセスが困難だった清原工業団地や芳賀・高根沢工業団地への通勤環境が激変したことがあります。
清原工業団地には約100社の企業が立地し、芳賀・高根沢工業団地には本田技術研究所をはじめとするホンダグループの関連企業が集積しており、合わせて数万人規模の雇用の場となっています。
これまでJR宇都宮駅からこれらの工業団地への通勤は、自家用車に大きく依存しており、朝夕の通勤ラッシュ時には慢性的な渋滞が発生していました。
しかし、LRTの開業により、宇都宮駅東口から清原工業団地(グリーンスタジアム前停留所)まで約27分、芳賀・高根沢工業団地まで約44分(快速なら約37分)で定時アクセスできるようになりました。
実際にホンダは、LRT開業と同時に2006年から運行していた従業員向け通勤バス(1日約1200人が利用)を廃止し、LRT通勤への切り替えを進めています。
このような大規模な通勤手段の変化により、これまで宇都宮への転勤では車の手配が必須でしたが、LRT沿線に住居を構えることで、車なしでの生活が現実的な選択肢となったのです。
駐車場ゼロ物件という新たな可能性
この影響はライフスタイルの変化にとどまりません。LRT沿線では、宇都宮市内では考えられなかった「駐車場ゼロ物件」でも、LRTの電停近くならアパート・マンション経営ができるということになりました。
これは不動産オーナーにとって革命的な変化です。
これまで宇都宮市では、駐車場の確保が困難な狭小地は、ほぼ住宅用地としての価値がありませんでした。
しかし、LRT沿線という立地条件があれば、小さな区画の土地でも利用用途が広がり、地価が上昇しやすくなっています。
今後、LRT沿線の電停近くなら、駐車場を設けずにワンルームマンション・アパートを建設するなど、従来では考えられない土地活用が実現していくことは確実でしょう。
インフラ整備の好循環が始まった
宇都宮市のLRT沿線では、マイカーを所有しないでも豊かに暮らせる生活環境が整ったのは素晴らしいことです。
LRTは単なる交通手段のわくを超えて、都市の構造そのものを変化させる力を持っています。
LRTの定時性と利便性により、沿線住民の生活パターンが変わり、それが新たな需要を生み出し、さらに地域の魅力が向上するという好循環が生まれています。
この新しいライフスタイルの定着は、不動産相場にも明確な影響を与えており、LRT沿線の物件では、駐車場の有無よりも電停からの距離が重視されるという、これまでの宇都宮市では考えられなかった価値基準が生まれ出しています。
特に「電停徒歩5分以内」の物件は、明らかに他のエリアとは異なる価格形成がなされています。
賃貸においても、駐車場なしでも成約する物件があることで、実質的な利回り向上効果が期待できます。
また、土地の有効活用の幅が広がったことで、これまで「建築困難地」とされていた狭小地にも投資価値が生まれてくるでしょう。
これは駅東エリア全体の地価押し上げ要因となっており、今後もこの傾向は続くと予想されます。
西側延伸への期待も込めて
現在、西側延伸計画については様々な課題が指摘されていますが、東側で起きているこの変化を見ると、LRTが都市に与える影響の大きさを改めて実感します。
LRT沿線エリアでは今後も脱マイカーの動きが進むでしょう。
若い世代を中心としたライフスタイルの変化、法人ユーザーの意識変化、そして不動産価値の新しい基準の誕生は、まさにLRTがもたらした「宇都宮の新常識」と言えます。
これまで車がなければ生活できないと考えられていた宇都宮市で、実際に車なしでも豊かに暮らせる環境が生まれたという事実は、今後の都市計画にとって極めて重要な示唆を与えています。
西側延伸が不透明な状況だからこそ、東側での確かな成果はより価値あるものとなっています。
すでに手にしているインフラを最大限活用し、東側エリアでの成功モデルをさらに深化させることが今後重要になっていくでしょう。
宇都宮市の不動産市場は、LRTが開通したことで確実に新しい段階に入りました。
この変化の最前線にいる立場として、今後も現場から生の情報をお伝えしていきたいと思います。
今回の内容が皆さまのお役に立てば幸いです🙌
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