8月26日に宇都宮市のLRTはめでたく開業3周年を迎えました!
同じ8月末にJR宇都宮駅西口では20階建ての「アトラスタワー宇都宮」が完成しました。
日経新聞は「西側始動」と題して駅西の再開発ラッシュと大きく報じています。
しかし、同じ週に東京都心の中古マンションは3カ月連続で下落し、メガバンクは住宅ローンの変動金利を半年ぶりに引き上げました。
すでに完成して完売した物件と、2030年、2033年、2036年に完成予定の物件では、置かれた条件がまったく違います。
宇都宮市の不動産マーケットの現場から、駅西再開発の「時間との戦い」について考えてみます。
記事リンク→宇都宮LRT延伸計画で再開発続々 JR駅西口に20階「億ション」(日本経済新聞)
記事リンク→東京都心の中古マンション価格、7月は1.7%安 高騰一服で弱含み局面に(日本経済新聞)
記事リンク→三菱UFJ銀行と三井住友銀行、住宅ローン変動金利0.25%上げ 半年ぶり(日本経済新聞)
目次
- LRT開業3周年と駅西再開発の「同時多発」
- アトラスタワーが完売したのは「金利が上がる前」だったという事実
- 東京都心は3カ月連続下落、投資家が買いを控え始めた
- 変動金利0.25%上げが宇都宮の買い手に意味すること
- 2030年、2033年、2036年・・「これからつくる物件」の時間との戦い
- まとめ
LRT開業3周年と駅西再開発の「同時多発」
2026年8月26日、芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)はめでたく開業3周年を迎えました。
LRT開業前の東口の人影まばら状況が一変し、駅前は人でにぎわい、駅東側では沿線の人口が増え、マンションやホテル、アーバンスポーツ施設まで新設され、宇都宮テラスには週末に行列ができています。
外から来た人が最初に目にする「街の玄関口」に活気があることの意味は、過去ログでもお伝えしたとおりです。
過去ログ→【東武百貨店、純損失8億円超の衝撃!にぎわいの中心はJR宇都宮駅周辺へ】LRTが加速させた宇都宮市の"東西格差"と不動産への影響とは!?
そして今、日経は「宇都宮LRT 西側始動」という連載で、駅西側の再開発が同時多発的に動き出したと報じています。
記事の内容を時系列で整理すると、こうなります。
まず、駅西口に隣接する20階建て「アトラスタワー宇都宮」が2026年8月末に完成。最上階近くの住戸は1億円を超える「億ション」で、2024年夏の販売開始から半年程度で全101戸が完売しました。
次に、駅西口大通り南地区では29階建て・約300戸の高層マンションと6階建ての商業施設が計画され、2026年7月に古い建物の解体が始まりました。
2027年に着工して同年から分譲販売、完成は2030年12月の予定です。
さらに、二荒山神社の南側、バンバ通り一帯では26階建て・180〜200戸の高層マンションと12階建ての商業棟(大型ビジネスホテルを誘致)を計画し、2033年の完成を目指すとのことです。
旧西武百貨店の建物は2028〜29年に解体予定で、再開発組合は2026年度中に立ち上げる段階です。
そしてLRT西側延伸の開業は2036年3月です。
過去ログ→【宇都宮市のLRT西側延伸、2036年に開業延期で事実上の計画凍結か!?】知事も弱気の発言で先行きの見通しはどうなる!?
こうして並べてみると、いかがでしょうか。
記事の内容を冷静に見なければなりません。
再開発が「同時多発」といっても、実際に完成しているのはアトラスタワーだけで、残りはすべて4年後、7年後、10年後の話です。
アトラスタワーが完売したのは「金利が上がる前」だったという事実
アトラスタワー宇都宮の完売は、宇都宮市の不動産マーケットにとって間違いなく明るいニュースです。
記事によれば、地権者でつくる再開発組合の理事長は「宇都宮の玄関口にそびえたつタワーが、新しい街のシンボルになる」と語っています。
ただ、私が現場で感じているのは、この完売の「時期」を冷静に見る必要があるということです。
販売が始まったのは2024年夏です。
日銀がマイナス金利を解除したのが2024年3月ですから、変動金利はまだ0.3〜0.4%台、10年固定も2%前後という水準でした。
しかも、東京都心のマンション相場は2024年半ばから上昇に弾みがつき、首都圏の投資家や富裕層が「まだ上がる」という空気の中で動いていた時期です。
つまり、アトラスタワーは、金利が本格的に上がる前で、かつ東京の上昇相場が地方の駅前物件にまで波及していた、いわば最も追い風の強い局面で売り切ったのです。
このブログでは2024年10月の時点で、アトラスタワーの総事業費が資材高騰で10億円近く増えたものの、販売好調で建設費の上昇分を価格に乗せられそうだとお伝えしていました。
過去ログ→【インフレと人手不足で、東京都心部でも再開発が困難に!?】LRT西側延伸と宇都宮駅西口の再開発にも暗い見通しが💦
あれから2年、状況はどう変わったのでしょうか。
再開発中の駅前タワーマンションは、29階建て約300戸で、アトラスタワーの3倍近い戸数です。
分譲が始まる2027年の金利水準と東京の相場は、2024年夏と同じでしょうか。
ここが、今回の記事を読むうえで最も重要なポイントだと思います。
東京都心は3カ月連続下落、投資家が買いを控え始めた
アトラスタワー完成のニュースと同じ8月24日、日経はもうひとつの記事を出しています。
不動産調査会社の東京カンテイによると、7月の東京都心6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)の中古マンション平均希望売り出し価格は、70㎡あたり1億8195万円で、前月比1.7%の下落でした。
下げ幅は5月が0.4%、6月が1.3%、7月が1.7%と、3カ月連続で拡大しています。
買い手がつかないまま売り出し中の物件も増えており、7月の流通戸数は前月比4.2%増の5309戸。都心6区で直近3カ月以内に値下げした物件の割合は51.1%に達しました。
結果として、半分以上の売り物件が値下げしているのです。
東京カンテイの上席主任研究員は「都心では26年末まで弱含みが続きそうだ」と話しています。
記事が指摘する理由は2つです。
価格高騰で実需層の手が届かなくなったこと、そして、相場上昇をけん引してきた投資家層が、金利上昇への懸念と価格上昇の鈍化を背景に買いを控え始めたことです。
さらに8月25日には、国土交通省が2027年度の税制改正要望に新築マンションの投機抑制策を盛り込む方針を固めたと報じられました。
記事リンク→マンションの投機取引抑制へ、国交省が税制改正要望 高騰に歯止め(日本経済新聞)
都心6区では2024年上半期に新築マンションの12.2%が購入後1年以内に転売されていたそうで、所有期間5年以下の譲渡所得税をさらに重くする案が自民党内にあるとのことです。
これは何を意味するのでしょうか。
東京の相場を押し上げてきた「短期で転売する買い手」が、金利面でも税制面でも、市場から退場を促されているということです。
興味深いのは、都心が下がる一方で郊外は上昇している点です。
横浜市は前月比1.0%高、さいたま市は2.1%高、千葉市は2.3%高でした。
「都心が下がって郊外が上がるなら、外延化の波はもっと遠くの宇都宮にも来るのではないか」と感じた方も多いはずです。
確かに、その可能性はあります。
しかし、ここで注視が必要なのは、ローン金利と不動産価格のバランスです。
「金利が1%上昇すると、不動産価格には15%の下落圧力がかかる」
これは、住宅ローン比較サービスMFSの語った見解です。
そして中長期では「郊外物件の方が価格調整を受けやすく、都心部との価格差が広がる」とみているのです。
つまり、価格上昇の外延化の波が郊外に届いたとしても、金利上昇局面ではその郊外こそが先に価格調整を受けやすい。
東京から見れば、宇都宮は「郊外のさらに外側」です。
首都圏マネーの流入で宇都宮の新築価格が押し上げられてきたことは、以前の記事でもお伝えしました。
過去ログ→【東京の家賃が所得3割超えの危険水域へ!宇都宮市への影響は?】首都圏マネー流入で地元民には新築が高嶺の花に!?
その流入が細り始めたとき、影響を受けるのは東京より先に宇都宮なのではないでしょうか。
変動金利0.25%上げが宇都宮の買い手に意味すること
8月31日、三菱UFJ銀行は9月の住宅ローン変動金利の最優遇金利を0.25%引き上げて1.195%にすると発表しました。三井住友銀行も0.25%上げて1.525%です。
大手5行の9月平均は1.155%となり、直近1年で変動型は約0.47%、10年固定型は約1.68%上昇したことになります。
5000万円を35年で借りる場合、毎月の返済負担は単純計算で1万1000〜4万7000円ほど増えるそうです。
私が最も気になったのは、金利そのものより、買い手側の「体力」を示す数字です。
三井住友トラスト調査によると、30代の住宅購入者のうち、物件価格に占める頭金が「約1割」または「ゼロ」と答えた人は合計67%に上ります。40代でも59%です。
そして、返済期間を40〜50年まで延ばす「超長期」住宅ローンへの関心が高まっており、直近1年以内に借り入れた人の7割が50年ローンへの借り換えに関心を示したとのことです。
これを分かりやすく例えるなら、荷物がどんどん重くなっているのに、背負う人の筋力は落ち、リュックの紐だけを長く伸ばして何とかしのいでいる状態です。
宇都宮市内でも、新築マンションの70㎡クラスは5000万円超が当たり前になり、栃木県の新築マンション年収倍率は12倍を超えました。
過去ログ→【栃木県の新築マンション年収倍率が12倍超に急騰!】中古需要は増加、しかし恩恵を受けるのは一部エリアだけ?宇都宮市の不動産市場の現実とは
過去ログ→【2026年7月、変動金利の返済額が跳ね上がる!】宇都宮市で住宅ローンが払えなくなる前に知っておくべきこと
地元企業にお勤めのご夫婦がペアローンで5000万円超の新築マンションを購入するケースが珍しくなくなったこともお伝えしてきましたが、その買い手の多くは頭金1割未満で、金利上昇の影響を最も受けやすい層です。
では、2027年に分譲が始まる駅西口の約300戸は、誰が買うのでしょうか。
首都圏の投資家は金利と税制で手を引きつつあります。地元の実需層は頭金が薄く、返済期間を伸ばすことでしか購買力を維持できません。
東京の相場が下がるほど、「宇都宮で買うより東京の郊外で買う」という比較も成り立ちやすくなります。
アトラスタワーが売れたからといって、その3倍の戸数が同じように売れると考えるのは、今の全体の流れをみると少し楽観的すぎるとみるのが冷静な判断ではないでしょうか。
2030年、2033年、2036年・・「これからつくる物件」の時間との戦い
もう一度、時間軸を確認します。
駅西口大通り南地区の29階建ては2030年12月完成予定です。バンバ通りは2033年完成目標、LRT西側延伸は2036年3月開業予定です。
今年5月の記事で、宇都宮市の不動産マーケットでは「すでに完成している物件」の価値が際立つとお伝えしました。
過去ログ→【金利急騰・ナフサショックの同時襲来!】宇都宮市の不動産マーケットで「すでに完成している物件」の価値が際立つ理由とは!?
理由はシンプルです。
完成している物件は建設コストが確定しており、金利や資材価格がこれからどう動いても、価格を「決め直す」必要がありません。
一方、これからつくる物件は、着工から完成までの間に起こるすべての変化を引き受けなければなりません。
2025年の新築住宅着工は前年比6.5%減の約74万戸で、人口1000人当たりでは1960年代初め以来の少なさです。
大工は2020年までの20年間でほぼ半減して30万人を切り、2035年前後には15万人も割り込み、回復の可能性はほぼゼロとのことです。
記事リンク→住宅新築もう増えない、中古修繕にも難 立地や資金計画の再考必要に(日本経済新聞)
記事では、「特殊要因がなくなっても建設の人手不足は構造的に変わらず、新築が本格的に上向くことはない」と分析しています。
つまり、駅西の再開発が完成する2030年、2033年には、今よりさらに職人が減り、建設コストは高止まりしているほぼ確実です。
アトラスタワーでさえ、2022年の計画から10億円近く事業費が増えました。
29階建て約300戸の事業費が、2027年着工から2030年完成までの間にどれだけ増えるのか。増えた分を分譲価格に乗せられるのか。乗せた価格で300戸を売り切れる買い手がいるのか。
そしてバンバ通りの再開発は、まだ組合すら立ち上がっていない段階です。
宇都宮市の人口は2018年をピークに減少し、足元は51万人。記事では「50万人都市」の維持が最重要課題とされています。
10年後の2036年に、この街にどれだけの購買力が残っているのでしょうか。
もっとも、これは必ずしも悲観すべき話ではありません。
新築がつくれない時代というのは、裏を返せば、すでに建っている状態の良い物件が希少になる時代です。
日経の記事も「修繕不要な状態の良い中古は価格が高止まりする」と指摘しています。
駅西エリアで言えば、アトラスタワーのように完成済みの物件や、駅徒歩圏の手入れの行き届いた既存マンション、戸建てこそが、再開発の期待と供給制約の両方の恩恵を受けやすい立場にあると私は見ています。
逆に、「LRTが来るから」「再開発が完成するから」と2030年代の期待を今の価格に織り込んで買うのは、時間との戦いに自分から参加するリスクを取ることになります。
まとめ
LRT開業3周年と、アトラスタワー宇都宮の完成。駅西の再開発が動き出したことは、宇都宮市にとって歓迎すべきニュースです。
私個人としても、再開発計画が順調に進み、街の活気をさらに西に広げてほしいと思っています。
しかし、仕事として不動産業に関わっている以上、期待だけで先行きを見ることはできません。
再開発計画の報道と同じ週に東京都心の中古マンションは3カ月連続で下落し、投資家は買いを控え、メガバンクは変動金利を引き上げました。さらに国交省は投機的な短期売買に税制で歯止めをかけようとしています。
アトラスタワーが完売したのは、金利が上がる前、東京の相場が上がっていた、最も条件の良い時期でした。
これから分譲される駅西口の約300戸、2033年のバンバ通り、2036年のLRT西側延伸は、金利上昇、職人減少、人口減少、首都圏マネーの縮小という逆風の中で、完成までの時間を乗り切らなければなりません。
宇都宮市の不動産マーケットで今後も価値を保ちやすいのは、「これからできる物件」ではなく「すでにできている物件」、それも駅徒歩圏やLRT沿線という限られたエリアの、状態の良いものだと私は考えています。
駅西エリアで不動産をお持ちの方にとっては、再開発への期待が最も高まっている今こそ、ご自身の物件が市場でどう評価されているのかを一度確かめておく価値のある時期かもしれません。
今回の内容が、皆さまのお役に立てば幸いです🙌
本記事は2026年8月31日時点の情報に基づいています
★荻原功太朗の業務について★



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